「タバコ、お金も掛かるし健康に悪いからやめたいけど自分でやめられないし、禁煙って病院で指導してもらえるって聞いたことがあるけど、どこの科でしてるんだろう」
こう思っているあなた、ご存知でしたか?実は禁煙指導、歯医者さんでもしているんですよ!
歯の健康という立場からみても、喫煙は非常に有害なものです。ですので歯科では業界を挙げて積極的に禁煙を勧めています。
では、どのようにお口に害があるのか、また歯科での禁煙指導はどのようなものなのか、今日は詳しく解説しますね!
歯科からみたタバコを吸うことのデメリット
「タバコは身体に悪いけど虫歯になる訳でなし口とは関係ないのでは…」と思うかもしれませんが、実は、喫煙はお口の健康に非常に影響を及ぼします。
なんといってもタバコの煙が一番初めに体に入る入り口です。ニコチン、タールなどの有害物質の影響をモロに受けます。どのような影響があるのかご説明します。
歯周病
歯周病は歯と歯ぐきの間の「歯周ポケット」と言われているところに菌(歯周病菌:ポリフィロモナスジンジバリスなど)が住み着き、その菌が炎症によって周囲の歯ぐきを支える骨を溶かしてしまうため、最終的に歯が抜けてしまう原因となる病気です。
歯が抜けていない人には想像できないかもしれませんが、歯が無くなりかみ合わせる部分がなくなるととても色々な面で不自由します。いわゆるQOLが著しく下がります。
タバコの煙は歯ぐきにダイレクトに悪影響を与え、免疫、特に好中球やサイトカインといった歯ぐきに害を及ぼす菌と戦う力が格段に落ちます。また血行も悪くなるので菌にむしばまれた歯ぐきが治癒する能力も遅いです。
タバコを吸っている人は歯ぐきの様子(肉眼的所見)が特徴的で、歯ぐきが色素沈着しており、出血は少なく、その割には歯と歯ぐきの隙間の深さ、いわゆる歯周ポケットと言われる歯周病の重症度を表す数値が大きい、という事が多いです。
また、残念なことに喫煙をしている間は、歯周病の治療をしても、歯周病の治療のための外科手術をしても、健康な喫煙をしていない人と比較してあまり改善が見られないというところにあります。
ですので、歯周病にならない、これ以上悪くならないようにするためには、喫煙を辞めるほかありません。
ある研究によれば、喫煙することにより、重度の歯周病になるリスクは3.31倍まで上昇することが明らかになりました。
また、恐ろしいことにこの研究では受動喫煙の人も重度の歯周病になる(家庭での受動喫煙だと3.14、家庭プラス家庭外の受動喫煙だと3.61)と、喫煙者より高い値をたたき出してます。。(Tob Induc Dis. 2015 Jul 29;13(1):19)
大事な家族まで巻き込んでしまっているのは何とも辛い話です。
口腔ガン
喫煙するとがんの発症リスクが上がる、という事は知られていますが例にももれず、お口の中で発生するがんも増えます。日本での研究では、喫煙により口腔がんは、男性で相対リスクが2.7、女性で2.0になることが分かっています(Journal of Epidemiology, 18: 251-264, 2008)しかし、喫煙することで非喫煙者と同じレベルの発症率まで減少するという事もわかっています。(国際がん研究機関 がん予防ハンドブック たばこ対策 第11巻)
着色
あと、これは体の他の部分と比べて圧倒的に喫煙、非喫煙者との見分けがつくのが着色です。タバコの煙に含まれているニコチンやタールなどの物質が歯の面にびっしりつき、茶渋のように茶色の色が付きます。
また歯肉はタバコの煙に含まれている有害物質によって血行が悪く、メラニン色素が増加するのでどす黒い感じになります。
禁煙指導の流れ
では、このように禁煙はしたほうが良いのは分かっているのだけど‥指導はどのように行われるのでしょう?
禁煙というのはやめがたい習慣です。このような習慣を断ち切る時ことを行動変容というのですが、この行動変容を起こす時というのは、人はいくつかの心の動き(ステージ)を通り抜けます。禁煙指導ではこの行動変容で通るいくつかのステージの通過をうまくサポートすることによって、禁煙を行いやすいものにします。
行動変容って?
では行動変容で通過するいくつかのステージというのはどういったものなのでしょうか?それぞれのステージとどのようなサポートなのかは、下に書かれたようなものです。
無関心期
喫煙していて、今のところ(6か月以内)やめたくないなーと思っている人はこのステージです。特にやめる必要性を感じていません。この段階の人は禁煙外来等に来ないのでアプローチがなかなかできないのが歯がゆい所ですが、例えば先ほど書いたようなタバコの危険性や周りへの影響、タバコをやめた時に得られるメリットなどのメッセージができるだけ届いてほしい所です。
関心期
喫煙しているけどやめようかな(6か月以内)と思い始めている人はこのステージです。このころ辺りに禁煙指導に来てくださる方が出てきます。こういう方には、お口の中の状態の説明、場合によっては吐いた息の中の一酸化炭素濃度の測定をして、今の自分の状態を正確に把握してもらいます。
準備期
行動を変えよう!と思っている人のステージです。このステージの方とは一緒に禁煙宣言書、といったものを作っていきます。禁煙を他の人に宣言することで禁煙は大幅に成功に近づきます。また、宣言書の中にはどのような人にサポートしてもらうか、禁煙できた時のご褒美、喫煙の誘惑の回避法、喫煙したくなったときの別の行動など、禁煙を成功させるのに必要なことをあらかじめ具体的に考えておきます。
実行期
実際に禁煙を初めて6か月未満がこの時です。実際に禁煙が出来ているか、禁煙の回避方法など実行期直前に決めたことがうまく機能しているかチェックするのもこの時です。禁煙日記などを活用して日々の振り返りなども行います。
維持期
行動を変えて6か月以上経過した時期です。この時期が続くといいのですが、実際はまた逆戻りしたり、また出来るようになったりというのを繰り返しながら禁煙に至ることが多いです。
禁煙補助薬とは?
と、指導はこのように行うのですが、実際喫煙というのは「ニコチン依存」によって起こるので、ニコチンの薬理的な効果から逃れられる手立てがないと片手落ちです。
禁煙補助薬とは、ニコチンやニコチン以外のものを使用し、やめることが困難になる原因のニコチン離脱症状(イライラ、不安、集中困難など)を出来るだけ少なくしながらニコチンの摂取を抑え、禁煙の手助けをする薬です。
内科ではニコチンパッチとバレニクリンが保険適応なのですが、歯科では処方できません。しかし、ニコチンガムとニコチンパッチはOTCで販売されているので薬局などで入手可能です。
ニコチンガム
ニコチンが含有されたガムで、タバコを吸いたい、と思ったときにかみます。初めは一日4個から12個まで、多くても最大24個まで摂取し、一週間ごとに1~2個づつ減らしていって、最終1~2個になったら使用をやめます。噛むだけで手軽、口寂しさがまぎれるのと、自分で使う量が決められるところが良い点です。
ニコチンパッチ
ニコチンパッチはニコチンが含有されている皮膚に貼るシート(パッチ)で、一日一回貼って使用するものです。
ニコチンの濃度が2種類あって、始めは濃度の高いステップ1、
次に濃度が半分になったステップ2を使用します。
1日1回貼るだけでいいので簡単なところが良い点です。
バレニクリン(非ニコチン内服薬)
バレニクリン(商品名:チャンピックス)はニコチンではなく、ニコチンの受容体と結合することによりニコチンの離脱症状を抑え、また体がニコチンと反応するのを防ぐことにより、タバコを吸ってもおいしくなくなる、という効果をもたらす内服薬です。
これは内科からの処方薬なので、歯科医院、および薬局等では購入できません。大体12週間の治療期間が必要で、その間医師の診察は2週間に一回間隔で受けます。吐き気などの副作用が出ることがあります。
妊娠中の方や授乳中の方、未成年の方などではまだ臨床データが集まっていないので慎重投与となっています。
費用はおおよそ一ヶ月6000円くらい(これが3か月なので18000円くらい)になります。
なぜ歯科で?~禁煙を歯科で行うメリット~
処方はできませんが歯科医院で禁煙指導を行うメリットはあります。そう、お口の中は見ることが出来るので、自分の今の状態、そして経過が分かるんです。
お口の中の状態を知るータバコの害が目に見えて分かりやすい
はじめでも触れましたが、タバコを吸っていたらお口の中が不健康になっています。全体的に黒ずんでいるので、おそらく一般の方にもわかりやすいでしょう。そして、歯科医師のほうからも、説明があると思います。お口の中の状態やこのまま続けていると深刻な状態になることや、実際の健康な人のお口の写真なんかも見せて貰ったら、たばこの害が耳で聞くよりもだいぶ身近なものに感じられるのでは‥。と思います。
お口の中が綺麗になるー綺麗な状態をキープしようとモチベーションが上がる
そして、もう一つ歯科医院で禁煙指導を受けていい点は、頑張ったことがお口に現れることです。
歯科医院で禁煙指導を受けると、ほぼ100%同時に歯周病の治療も行います。
歯周病の治療は歯の汚れを落とす治療でもありますので、回数を重ねるごとに歯は白くなり、歯と歯ぐきの間の汚れも取れ、徐々に健康な状態に近づいてきます。
しかし、喫煙をしたら‥。せっかくのきれいな状態が元に戻ってしまうんです。それに喫煙を続けていたら、先生はお見通しです。
このように、他の科で受けるよりもストイックに出来る環境がそろっているし、最後にはきれいなお口になれる、というご褒美もあるので、歯科での禁煙指導は、なかなか効果がでやすいのではないのかな?と思います。
どの歯科医院でもやってるの?
広まってほしい気持ちはあるのですが、禁煙宣言書をはじめとした行動変容をサポートする、禁煙外来として行っている歯科医院はまだまだ数は少ないのと、保健診療ではないので自費診療でおこなっているのが現状です。しかし、歯医者さんは禁煙について、意識も関心も非常に高いので、禁煙の意志があることを伝えたら、喫煙のリスクを教えてくれたり、禁煙を必死で勧めてくれると思います。歯周病の治療や定期検診ごとに禁煙が継続できているかは気にかけてくれると思います。
こんな風に自分の禁煙にプラスになることは間違いないのでぜひとも歯医者さんも活用してみて下さいね!
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