インプラントの治療が終わって快適に食べられるようになったなあ。このまま良い状態をキープするためにもベストなホームケアの方法を知りたいな。そういえば、歯磨き粉って今までのものをそのまま使用しても大丈夫なんだっけ?
インプラントのオペを受け、上部構造を作製し…。長い期間お疲れ様でした。上部構造が完成し、やっと噛める喜びを再び取り戻したことと思います。
せっかく入れたインプラント、長い期間トラブルの少ない状態で保ちたいですよね。そのためには日々のお手入れが重要になってきます。
今回はそんなお手入れアイテムの一つである、歯磨き粉はどんなものが良いか、そして今どんなものがあるかをお伝えしたいと思います。
インプラントは「入れたら永久にもつ」訳ではありません。
多くの方が持っているインプラントのイメージというのは
「失った歯を人工の歯でよみがえらせるので、半永久的」
といったものではないでしょうか。「人工」だから、費用も高いし人工物だから虫歯や歯周病の影響もないだろうし、入れるだけで後はお手入れの必要がない、と、一見すると思ってしまうかもしれません。
でも、実際はインプラントだからと言ってお手入れが不必要だという事は決してありません。
その理由を今からご説明します。
インプラント周囲炎という歯ぐきの炎症が起こるケースも
インプラントは上の図のように、人工歯根である「インプラント体」という歯ぐきの骨(歯槽骨)に埋まっている部分と、人工の歯(上部構造)の二つのパーツでできています。
「インプラント体」と言われている部分はいわゆる歯の根っこの役割をしており、人工の歯の部分は歯ぐきよりも上の見えている部分(歯冠)の役割をしています。
この、歯の根っこの役割を果たしているインプラント体はチタンでできていて、表面はざらざらとしています。
チタンは骨とのなじみが良く、その上表面をざらざらさせることによって、歯の根っこを歯ぐきの骨に直接埋めた際、骨が治っていく段階でインプラント体と直接くっつく仕組みを利用して(オッセオインテグレーション)歯ぐきの骨にインプラント体をくっつけています。
このようにインプラントは骨に直接くっつく形で維持されています。
このまま健康な状態であれば、インプラントと骨はずっとくっついたままでいられるのですが、それを邪魔する存在があります。それが歯周病菌です。
歯周病菌は空気を嫌う菌で、歯と歯ぐきの隙間などに汚れ(プラーク)がたまり、空気が少なくなった状態で増殖し、その結果骨を溶かします。
この作用は歯と歯ぐきの隙間だけではなく、歯ぐきの骨とインプラントの間でも汚れ(プラーク)がたまり空気の少ない状態になると、歯周病の時と同様に骨を溶かし始めるのです。
インプラントも、インプラント体と人口の歯の周りは天然の歯と同様、食べ物の汚れやプラークがたまります。
食べ物の汚れやプラークをそのまま放置していると歯周病菌が活躍してしまい、骨を溶かします。
そのためにインプラント体がぐらぐらしてしまうという事態にもなりえます。
このような疾患のことを、インプラント周囲炎と呼びます。
インプラントが日常的な治療として施術されるようになってから30年ほど経過し、このように結局インプラントが継続して使用できない症例が散見されるようになりました。
このような経過をたどらないためには、
インプラント周囲にプラークをはじめとする汚れをためないことです。
そのため、現在はインプラントを実施する歯科医師はインプラントを考えている患者さんにはインプラントの説明に際して、インプラントを入れ終わった後のケアの大切さも同時にお伝えしています。
インプラント埋入後も定期的な検診をおすすめしています。
このように、最近はインプラントを埋める(埋入)する患者さんには同時にインプラントの埋入後も定期検診(とお手入れ)もおすすめしています。
項目としては
- インプラントがしっかり埋まっているか、揺れていないか
- インプラントの歯ぐきの周りのチェック(ポケット深さ、出血、膿が出ているか)
- 汚れが付いていないか、
- 人工の歯の部分が割れていないか
- かみ合わせは合っているか
などをチェックします。
同時にインプラント体と人工の歯の間の汚れをプロの手で取り除きます。
定期検診の頻度に関しては受けられた方の状態にもよりますが年2~3回といったところでしょうか。
費用も医院によって異なります。
長い期間になりますのでインプラントの手術を受ける前に一度聞いてみるほうが良いかと思います。
プロケア(歯科医院でのお手入れ)だけでなくホームケア(家でのハミガキ)も大事
このようにプロによるお手入れは年に数回行われますが、それ以外の日も当然歯には汚れが付着しますので、しっかり除去してあげる必要があります。
そのために日々のお手入れはとても大事になってきます。メカニカルケア(歯ブラシ、歯間ブラシ)などについてはまた回を改めて書くこととしまして、
今回は、
「ではインプラントに使用する歯磨き粉はどういうものがいいのか」
についてお話させていただきます。
インプラントに使用する歯磨き粉を選ぶポイント。こういう歯磨き粉はやめておきましょう!
現在インプラントの研究において一番大きな規模である学会に「日本口腔インプラント学会」という学会があります。
その学会が一般の方向けに情報を提供しているホームページに、洗口液や歯磨き粉に関して書いている項目があります。
歯磨剤や洗口剤を併用しても構いません。歯ブラシでのクリーニングがしっかりできている上で併用すると効果が期待できます。洗口剤は薬用成分のあるものとないもの、アルコールを含むものと含まないものなど種類によって特徴が様々なのでご自分にあったものをお選び下さい。
ここから、学会自体は基本どういう歯磨き粉を使用しても構わないとスタンスだという事がうかがえます。
ただ、一個人の見解としては、
患者さんによって使用している人工の歯の部分の材料は人によってさまざまです。
もし傷がつきやすい材料の人工の歯を入れているのであれば、歯磨き粉の中の歯の汚れを削り落とす成分(研磨剤)が弱い研磨力のものを選択するほうが良いのではと思います。
と、考えています。
そもそもブラッシングのみで汚れは落とせて研磨剤は必要ない。
という歯科医師の先生も多いので、このあたりはインプラントを入れるときに歯科医師や歯科衛生士に聞いてみるのが良いかもしれません。
ただ、やめておいた方がいい歯磨き粉はあります。
歯磨き粉の中に目に見えるくらいのツブツブが入った歯磨き粉です。
このような、目の粗いツブツブ(研磨剤)が入っているものはインプラント周囲の隙間に入って取れなくなり、炎症の元となりますので使用を控えましょう。
インプラントにフッ素配合の歯磨きを使用してもいいの?
一時期、歯科の専門家の間で
「インプラントのチタンはフッ素で腐食するのでインプラント用の歯磨剤はフッ素無配合のものが良い。」という流れがありました。
現在はどのように考えられているのでしょうか?
フッ素(フッ素化合物のことなのですが、ここではなじみのあるフッ素という事はに統一しておきます)は時として悪者のように語られるのですが、歯科の、特に虫歯予防の観点からいえば使用することにより明らかに虫歯が予防できる唯一の物質であり、使用を推奨している物質です。
特に、インプラントを行っている人は残っている歯をう蝕から守るということもとても大事になってきます。
それを考えるときちんとした検証なしにむやみやたらにフッ素の使用を控えるように言うことはできません。
このようなことを鑑みて、インプラントのことを専門的に研究している
「日本口腔インプラント学会」という学会と、
「日本口腔衛生学会」という歯科の予防に力を入れている学会と
共同してインプラントにフッ素配合の歯磨き粉は有害かどうかを調査しました。
その結果
「フッ化物配合歯磨剤の利用はチタン製歯科材料使用者にも推奨すべきである」という内容で、日本口腔衛生学会からは平成27年5月8日に声明文が、日本口腔インプラント学会からは日本口腔インプラント誌 第30巻 第3号に論文として発表されています。どちらも
チタン材を使用しているインプラント装着者や矯正治療患者においても、フッ化物配合歯磨剤の利用を控えるべき科学的根拠は認められなかったことと、学術的根拠の明らかな齲蝕予防効果から、天然歯を有する限り、フッ化物配合歯磨剤の利用はチタン製 歯科材料使用者にも推奨すべきである
といった内容でまとめられています。
書いている内容はややこしいですが、要するに色々今までの研究を調べたけどフッ素入りの歯磨き剤のフッ素は使うのを辞めないといけないほどインプラントに悪い影響を及ぼさなかったし、それよりフッ素使うほうが残った天然歯のためになるので使いましょうよ。という事です。
現在販売しているインプラント用の歯磨き粉
今までのお話でどのような目線でインプラント用の歯磨き粉を選んだらいいのかの目安をお伝えしました。
次からは具体的にいくつかインプラント用、もしくはインプラントにおすすめな歯磨き粉をご紹介します。
インプラント用の歯磨き粉にフッ素は入っているの?
かつて「フッ素はインプラント体を腐食させるのでフッ素無配合のものがインプラント専用の歯磨き剤」という方向で各メーカーとも開発、プロモーションをしていました。
しかし平成27年に真反対の方向の声明が各種学会から提言されてしまったので、今頃必死に新しい歯磨き粉を開発していることでしょう‥。
という訳で現在あるインプラント用の歯磨き粉(正しく言えば液体歯磨き、ジェル)にはフッ素は入っていません。(でもある方が良い!)
似たような設計でフッ素の入っている歯磨き粉(ジェル)は何個かありましたので、ご紹介します。
バトラーデンタルリキッドジェル
歯磨き粉には研磨力が高い研磨剤が入っていて、液体歯磨きには実はフッ素は配合できません(国の規制の関係)。
なので、「研磨剤はいらないがフッ素は使いたい」という両方の希望を満たすとなるとどっちでもないジェル状の歯磨き剤一択にになります。
バトラーのリキッドジェルは研磨剤と発泡剤が配合されていません。
薬効成分は抗菌剤のCPC(塩化セチルピリジニウム)とフッ素925ppmとシンプルな処方になっています。
バトラーのCPCは効果が高い(CPCは難しい成分で同量配合されても処方が良くないと効果が発揮されない)ので、抗菌作用も十分期待できるかと思います。
コンクールジェルコートF
こちらも歯医者さんでおなじみコンクールジェルコートF。
- フッ化ナトリウム950ppm
- 塩酸クロルヘキシジン0.05%
- ポリリン酸ナトリウム
が配合されています。
天下の塩酸クロルヘキシジン(塩酸クロルヘキシジンというのは昔から歯周病に効果のある抗菌剤という事で有名)が配合されているのですが、実はこの薬効成分、十数年前にアナフィラキシーショックを起こした兼ね合いで効果が十分に出る量を配合することはできなくなったといういわくつきの薬効成分なんですよね…。(こそっ)
しかし、清掃材としてポリリン酸ナトリウムが入っているので、歯の汚れは落ちそうです。
コンクールジェルコートIP
ここからは、インプラント用の歯磨き粉(ジェル)を紹介していきます。
このコンクールジェルコートIPという歯磨きジェルはインプラント専用歯磨きジェルとして開発されたものです。
コンクールジェルコートからフッ素を抜いて、
バトラー デンタルリンス
バトラーから出ているデンタルリンス(液体歯磨き)、
よく見たら「インプラントにも」と記載されています。
液体歯磨きはもともとフッ素が配合されていないのでインプラントにも大丈夫だと訴求したのでしょう。
こちらもCPCが配合されたシンプルな処方になっています。液体歯磨きはインプラントをしている、いない関係なく使用シーンに応じて使う感じでしょうか。
いかがでしたでしょうか?これであなたのお悩みが少しでも解決できれば幸いです!
入れ歯とインプラント、どっちがいいの?特徴、費用、期間、メリットデメリットを徹底比較。あなたはどちら向きなのかが分かるチェックリストも大公開
コメント