
歯科の材料って金属が使用されているけど、アレルギーとか大丈夫なのかな?
と思われている方もいらっしゃるかもしれません。

歯科で使用されている材料は出来るだけ体に対しての安全性が重視されたものが使用されていはいるのですが、時としてアレルギーが起こることはあります。
今回は歯科で使用される材料が原因のアレルギーについて、原因、症状、検査・治療法、そして治療成績をお伝えしていこうと思います。
歯科アレルギーってどんなアレルギー?
そもそもアレルギーとは
人の身体は、いつも様々な外界の敵、例えば病原性の細胞のようなものから攻撃されています。
そしてその攻撃から身体を守るために「免疫細胞」という細胞が外界の敵を倒すことにより健康が保たれています。
しかし時としてこの「免疫細胞」はこれが異物だ、という判断を間違ったり、また異物に対して過剰な反応を起こすことがあります。そのような過剰な反応を起こした結果の一つが「アレルギー」です。

銀歯などの歯科の材料に限らずアレルギーは起こるときには起こります。
「アレルギー」にはいくつかの種類があって、免疫細胞とその細胞が起こす反応によってすぐに身体に影響の出る反応もあれば、時間が経ってから影響のでる反応もある。
そして、アレルギーはそれらの反応の種類によって大きく5つのタイプに分けられています。
Ⅰ型:アナフィラキシー反応
Ⅱ型:組織障害性反応
Ⅲ型:免疫複合体反応
Ⅳ型:細胞性免疫反応
Ⅴ型:抗レセプター型アレルギー反応
といった分類です。
例えばⅠ型はすぐ起こる反応で、原因になる物質を取り込むと身体がすぐさま反応します。例えば食物アレルギーやハウスダストなどが有名です。
では歯科で起こるアレルギーはどの分類にあてはまり、どのような反応、症状を起こすのでしょう?
歯科アレルギーはⅣ型が多い

歯科材料、特に金属で起こるアレルギーはこの分類でいえばⅣ型に当てはまることが多いです。
この反応は遅延型アレルギーと言われており、比較的反応が出現するまでに日数がかかります。
なぜならば、この免疫反応を起こす細胞はT細胞という細胞なのですが、
この細胞は
- アレルギーの元(抗原)を認識し、
- それに対してオーダーメイドに攻撃する物質(抗体)を産生して攻撃する
という他の免疫反応に比べて比較的手順のかかる手段をとるからです。
歯科で使用される材料によってアレルギーが起こる仕組み
では銀歯など歯科で使用される材料は具体的にどういうふうに免疫細胞に認識されて、免疫反応が起きるようになってしまうのでしょうか?

頻度の高い”金属”を中心に仕組みを説明してみましょう。
金属がそのまま存在しているだけではアレルギーは生じない

「金属でアレルギーが起こる」というのは歯科に限らず耳にする話です。
実は金属単体が肌に触れていてもそれ自体は悪さをしません。
実は金属と肌の間に水のような液体が介在することによってアレルギーが生じる環境が発生します。
金属がイオンになった時に起こる

ここからは少しむずかしいですが・・・
金属は水など液体が介在しないところでは安定した状態を保っています。
しかし、金属の周りに水があると、金属が溶けだして(腐食)、「金属イオン」という身体に取り込まれやすい形になります。
この金属イオンが身体の中に入ると、さらに「ハプテン」というたんぱく質がくっつきます。このハプテン、というたんぱく質がくっついた金属イオンは免疫細胞に「この金属イオンは身体にとって異物だ」と認識されやすくなってしまいます。
そして最終的には免疫細胞に「金属は異物」と認識され金属イオンのあるところで免疫反応が起こってしまう訳です。

要するに溶け出すとアレルギーが起きやすくなるということです。
歯科材料の中でアレルギーを起こしやすい金属
歯科材料で使用されている金属の中でも、アレルギーを起こしやすい金属、起こしにくい金属があります。起こしやすい、起こしにくいはそれぞれ腐食してイオン化しやすいかどうかがカギになります。

以下に歯科でよく使用されている金属の中で金属アレルギーを起こしやすいと言われている金属を挙げます。
ニッケル
ニッケルはイオン化しやすい金属で歯科の分野以外でも金属アレルギーの原因として指摘されることが多い金属です。宝飾品や食品にも含まれていることがあります。
強度が強く、加工がしやすいことから歯科の合金の中に配合されているケースがあります。
具体例としては、入れ歯のばねの部分や前装冠という、周りが白い歯によく似た材料でおおわれるかぶせ物の中の材料となる金属の合金の一部に使用されている事などがあります。
クロム
クロムも歯科材料の中でアレルギーの起きやすい金属として知られています。
歯科ではコバルトクロム合金という合金で、入れ歯の金具や金属の床、矯正のワイヤーに使用されています。
コバルト
コバルトは単体では使用されませんが、合金にすると腐食に強い性質になるので、歯科でもよく使用されています。これもまた、入れ歯の金具や金属の床に多く使用されます。
水銀
水銀はアレルギーを引き起こしやすく、毒性が高い物質です。
水銀を用いた歯科材料として、今は使用されていませんがかつて直接充填できる金属製の詰め物として使用していた「アマルガム」というものがありました。
しかし、アマルガムの中に含まれている水銀は無機水銀といって毒性を発揮しない水銀ですので、水俣病をはじめとした毒性のある水銀(有機水銀)と並列に語られている昨今の風潮はいささか論理的に飛躍しているように思います。
パラジウム
パラジウムは希少金属の一つで、保険の合金にも使用されています。
腐食しにくい金属ではあるものの、口腔内という金属にとって過酷な状況下では、その過酷さの度合いによっては腐食しますし、アレルギーを引き起こしやすい金属とされています。
このような性質を持つ金属なので、国によっては(例えばドイツ)歯科金属ではパラジウムを使用しないように規制が敷かれているところもあります。
日本では戦後のもののない時代に保険診療が開始されたので、他の国の安全性のレベルではなく暫定的に決められたので保険の合金に使用されたという経緯があります。
それぞれの金属の陽性率の割合

では、歯科で金属アレルギーは、どの金属がどの割合で引き起こしたのでしょうか?
ある論文では
金属アレルギー患者でパッチテストを実施した時の金属アレルギーの陽性率
ニッケル20.2% 亜鉛11.7% パラジウム11.1% コバルト7.5% 水銀5.6% スズ4.4% 金4%
(日口腔検会誌 5:45‐50. 2013)
と報告しています。
パッチテストという、アレルギーの候補として考えられる金属を皮膚に貼り、数日後に皮膚炎が起こっているかどうかを見る試験で、皮膚炎になった人の割合がこのようになっています。
亜鉛やスズは、歯科金属には大量には含まれていませんが、合金の中に数%含まれています。
上記以外の物質でも身体が異物と認識したら起こりうる可能性はゼロではない。
アレルギーは、「身体は異物と認めたら生じる」し「身体が異物と認めなかったら生じない」という性質の疾患です。

もしこれらの金属がお口の中に入っていたとしても、身体が異物と認めずアレルギー反応を起こさなければずっと起きないままだし、逆に他の人では起こったことのないような材質でも身体が異物と認めアレルギー反応をおこすと生じます。
ですので、上記の金属が入っているから即悪者、という訳ではないし、上記の物質以外のものが悪さをしている、という場合も往々にしてあります。
ここまで、金属を中心にお話をしてきましたが、もちろん稀ではありますが金属以外の歯科の材料がアレルギーの原因になることもある訳です。
アレルギーが起こった時に生じる症状
では歯科の材料が原因のアレルギーでよく見られる症状にはどのようなものがあるでしょうか?以下に挙げてみます
接触性皮膚炎
初めにも書きましたように、金属アレルギーは遅延型のアレルギーが起こります。全身に現れる症状は非常の多彩で、アトピー性皮膚炎や発疹などが生じることがあります。
苔癬型反応(扁平苔癬)
口腔内で見られる症状としては扁平苔癬があります。扁平苔癬とは、お口の中に白く角化した皮膚がみられる症状で、ピリピリとした痛みを伴うことがあります。
膿胞型アレルギー反応(掌蹠膿疱症など)
主に手足に細菌などのに感染していないのに、小さい膿疱が出来、ひどくなると皮膚がむけ痛みが生じます。
歯科材料のアレルギー検査
では、歯科材料からのアレルギーを疑ったときにどのような検査があるのでしょうか?次にあげてみました。
パッチテスト

歯科でよく起こるアレルギーは皮膚に接触することにより反応が出やすいので、「パッチテスト」という検査がよく使われます。
アレルギーが疑われる歯科の材料をそれぞれ皮膚の上に載せ、数日後に皮膚炎が起こっているかどうかを見る方法です。
その他の検査方法
その他の検査方法に関しては専門的に行っている大学病院で行われています。
一例として実際行われている大学の検査内容を引用されていただきました。
・問診(コンサルテーション)
ふだんから皮膚かぶれの起こりやすい方、口内炎のできやすい方、歯科材料の使用に心配のあるなど、ケースに応じてきめ細かく診査をおこないます。・X線診査
目的により、お口の中の一部、または全体をレントゲン写真で診査します。・金属成分分析検査
パッチテストで陽性反応のあった物質が、お口の中にあるかどうかを調べる検査です。お口の中の金属製の詰めもの・かぶせものの表面を軽く擦り、サンプルを採ります。痛くありません。また、日用品や装飾品などの金属製品も調べることができます。・口腔内金属の電気化学的腐食傾向検査(DMAメーター検査)
お口の中の金属が、どの程度溶出しているかを調べる検査です。特殊な計測装置を使用し、電気化学的に腐食傾向を調べ、金属成分の溶出程度を調べることで、原因物質の存在場所を確定するてがかりとします。・血液検査(DLST試験)
採血をし、血液成分より金属アレルギーの体質を調べる検査です。パッチテストとともに検査することで、アレルギー疾患の原因を明らかにします。・プリックテスト
麻酔薬やラテックスゴムなどのアレルギーを調べる検査です。皮膚の表面に検査薬を垂らし、専用の器具で皮膚表面を押すことで、反応を見ます。(東京医科歯科大学 歯科アレルギー外来より)
この外来では歯科材料のアレルギーに関しての相談を受けているとのことで、自費になりますが検査等を行い診断を行っています。
ただ、実際の治療(該当した材料の除去など)は行っていないとのこと。
アレルギーの対処方法
では、アレルギーの原因となる材料が分かったら、その後はどのような治療になるのでしょうか?
疑わしいものが分かったら…原因の除去

アレルギーの根本的な治療は「原因の除去」になります。
ですので、歯科の場合は原因となった材料の除去となります。
原因となる歯科材料は、詰め物やかぶせ物などの金属である場合が多いので、原因となる詰め物、かぶせ物を取り除き、アレルギーを起こさない材質のものと交換することが治療になります。
アレルギーを起こさない代わりのの材料として選択されるものとしては、セラミックスやハイブリッドセラミックスなどを使用することが多いです。
特に最近では歯科金属アレルギーの診断が付いたら保険でハイブリッドセラミックのかぶせ物が入れれるようになりました。
過去記事↓この記事の後半に書いています。

そして原因と考えられる材料を取り除いた後にアレルギーの様子を経過観察していきます。
と、このような流れで歯科アレルギーの治療が行われています。
歯科アレルギーの治療成績

では、実際にこのように歯科アレルギーを治療した際の治療成績はどのようなものなのでしょうか?
特に熱心に歯科アレルギーに取り組んでいる大学病院として、東京医科歯科大学の歯科アレルギー外来があるのですが、そこでの2000年の歯科アレルギーの治療成績を一例として挙げさせていただきます。
年齢分布:平均年齢47歳
女性が男性の3.7倍 歯科からの紹介が前提の42%
パッチテストの施行率は約半数
パッチテスト陽性者の割合 →ニッケル(25.9%)、水銀、コバルト、クロム
年齢:平均45歳(20~40代多い) 女性が男性の2.6倍
口腔内の疾患よりも圧倒的に口腔外の疾患が多い(80%以上)
(歯科と金属アレルギーより)
このような状態の患者さんに治療を施したところ、
アレルゲンを完全に除去した状態で改善を認めたものは25%、完治5%、変化無し50% 再修復終了時点では50%以上に著明な臨床効果が認められた。
(歯科と金属アレルギーより)
と、およそ半数以上には著明な効果が表れたとのことです。
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いかがでしたか?歯科アレルギーについて少しでも疑問が解決したら幸いです!
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