抜歯の前に気を付けて!骨粗鬆症など、骨に関わる治療を受けていませんか?骨吸収抑制薬が招く抜歯後のトラブルについて

腰の骨のレントゲン写真抜歯

「歯の治療をするのに内科や整形外科のことなんて関係ないでしょ。問診でも聞かれるけどよく覚えてないし、ちゃんと書かなくても大丈夫だよね」

と思ってしまうかもしれませんが、これが思いもよらぬ大変な事態を引き起こしてしまう場合があるんです。

例えば、加齢などの影響で骨がスカスカになってしまう、「骨粗鬆症」という病気があります。進行したら身体の重要な部分の骨が折れてしまったりする深刻な病気ですが、今は治療薬が開発されて進行が抑制できるようになりました。

しかし、実はこの治療薬の使用中に抜歯をすると、顎の骨が腐ってしまう(壊死)という現象が起こることが最近分かってきました。

今回は、この骨粗鬆症と抜歯についてを取り上げていきたいと思います。

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骨粗鬆症の薬の中には、抜歯の後の顎の骨の治りを妨げてしまう(壊死する)作用を持つものがあります。

年齢を重ねるとよく耳にする「骨粗鬆症」。骨の密度が疎になり、そのために骨折が起こりやすくなる病気です。背骨や足の骨など動くのに重要な部分が骨折してしまうと、歩行困難など要介護状態になりかねないので、病気が発見されたら何らかの処置が行われることが多い疾患です。

骨粗鬆症の治療法は近年飛躍的に開発されており、注射薬や内服薬を継続して摂取することにより、状態が改善されるようになりました。

しかし、この骨粗鬆症を治療する薬のうちのある種類のものには、歯科治療を受ける際に重大な副作用が起きることが分かってきました。

どのような歯科治療で、どのような副作用がでるのでしょうか?

それは、「抜歯」などの主に顎の骨に関連するような治療を行うと「顎の骨が壊死してしまう」という副作用なのです。

このような、ある種類の骨粗鬆症の治療薬を服用した人が抜歯をすることによって起こる顎の骨が壊死してしまう状態を 「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)」と呼んでいます。

また、この種類の薬は、骨へのがん転移を抑制する作用も持つので、ある種類の悪性腫瘍の患者さんの治療にも用いられており、それらの患者さんでもこの顎骨壊死が散見されています。

骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)とは?なぜARONJが起こるのか?

この、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ) とはどのような状態なのでしょうか?

骨粗鬆症の進行を抑える薬、悪性腫瘍の骨転移を抑制する薬の中には、薬の成分のもつ「骨吸収抑制作用」を利用して進行を抑えるものがあります。これらの薬は、骨を破壊する細胞である「破骨細胞」という細胞に作用して、破骨細胞の働きを抑制し、骨をこの細胞によって破壊されないようにすることで、骨の密度を減じなくさせる、といったメカニズムで骨粗鬆症の進行を抑えています。

この薬は効果もあり、よく使用されるようになりましたが、使用されているうちにある副作用があることが分かってきました。

それは、歯科治療の中でも、「抜歯」のような顎の骨に関連する治療を行った後、抜歯した周りの骨が腐り(腐骨化)、ポロポロになってしまっていつまでも抜歯の後の骨が治癒しない、という状態です。

この状態が報告されたの比較的新しく、初めて発見されたのが2003年と言われています。

また、どれくらいの発症頻度かも分かってきました。この状態を引き起こす薬には、注射薬と内服薬があるのですが、注射薬で1~2%、内服薬0.01~0.02%の割合で発症する、という事が分かってきています。

なぜ起こるのか、という点は詳細は明らかにはなっていませんが、発症するリスク因子などから、骨に何らかの感染が起こり、それが持続してしまう事によって起こるのではないかと推測されています。

 

ARONJを引き起こす作用を持つ薬

次に、ARONJの原因となると考えられている薬を一覧にして挙げてみました。

注射薬or経口薬一般名主要商品名悪性腫瘍or良性(骨粗鬆症)
適応症
注射薬パミドロン酸二Na
アレディア悪性腫瘍悪性腫瘍による高カルシウム血症
乳癌の溶骨性転移
注射薬ゾレドロン酸水和物ゾメタ悪性腫瘍悪性腫瘍による高カルシウム血症
多発性骨髄腫による骨病変および固形癌骨転移による骨病変
注射薬デノスマブランマーク悪性腫瘍多発性骨髄腫による骨病変および固形癌骨転移による骨病変、骨巨細胞腫
注射薬
アレンドロン酸Naボナロン点滴液注バッグ骨粗鬆症骨粗鬆症
注射薬イバンドロン酸Na水和物ボンビバ静注骨粗鬆症骨粗鬆症
注射薬ゾレドロン酸水和物リクラスト点滴静注液骨粗鬆症骨粗鬆症
注射薬デノスマブブラリア骨粗鬆症骨粗鬆症
経口薬エチドロン酸2Naダイドロネル良性骨粗鬆症、骨ベージェット症、脊椎損傷後、股関節形成術後の異所性骨化の抑制
経口薬アレンドロン酸Naフォサマック、ボナロン骨粗鬆症骨粗鬆症
経口薬リセドロン酸Naアクトネル、ベネット骨粗鬆症骨粗鬆症、骨ベージェット病
経口薬ミノドロン酸水和物ボノテオ、リカルボン骨粗鬆症骨粗鬆症
経口薬イバンドロン酸Na水和物ボンビバ骨粗鬆症骨粗鬆症

(引用:日本口腔インプラント学会誌 第30巻第3号 191-199)

12種類ほど記載していますが、大きく①デノスマブ ②ビスフォスフォネート剤の2種類に分けられます。

主な骨吸収抑制薬の解説①デノスマブ(ランマーク、プラリア)

骨吸収抑制薬の一つに、デノスマブ、という種類のものがあります。2012年4月に薬価収載(保険で使用していいですよと許可が下りたという意味です)されたので、比較的新しいお薬です。

人の身体に存在する骨を破壊する細胞である、破骨細胞に働き、破骨細胞のもつ「RANKL」という破骨細胞の成長をオンにするスイッチにくっつくことにより、破骨細胞が未熟なままの状態を保ち骨を溶かさないようにする、という働きを持ちます。

薬の販売名としては、ランマーク(第一三共)プラリア(第一三共)があります。ランマークは悪性腫瘍、プラリアは骨粗鬆症が適用症です。

プラリアは6ヶ月に一回注射することで骨粗鬆症に対しての効果が得られるので患者さんへの通院等の負担も少ないです。

また、デノスマブは最近リューマチも適用症になったので、ますます使用する患者さんが増えることが予想されます。

主な骨吸収抑制剤の解説②ビスフォスフォネート剤

ビスフォスフォネート剤は、内服もしくは静脈注射すると、骨の表面に取り込まれ、骨の表面に取り込まれたビスフォスフォネート剤を破骨細胞が食べるとアポトーシスという現象を起こし、死んでしまう、というメカニズムを利用して骨吸収を抑制しています。

歯科治療はどのように受けたらいいの?その①まだ服用していないが服用することがあらかじめ分かっている時

まずは、歯科医師に今後骨粗鬆症、関節リュウマチ、悪性腫瘍の治療を行っていきます、という旨を伝えてください。そうすると歯科医師からかかりつけの内科医に連絡を取り、今後の歯科治療のスケジュールを組むことになると思います。

顎骨壊死は「細菌感染」が最も原因として疑わしい、とされています。ですので、お口の中が汚れているのは顎の骨に関連する歯科治療を行わないとしても顎骨壊死が起こるリスクが高まります。ですので、お口の中を清潔にする処置も一緒に組み込まれることになると思います。

2週間前に歯科治療を終了させる

骨吸収抑制薬関連顎骨壊死についてはこのように取り扱うべき、と各種学会が定めた方針(2016年のポジションペーパー)では、「全ての歯科治療は骨吸収抑制薬開始の2週間前までに終了するのが望ましい」とされていますが、もちろん、治療のスケジュールによってはそれまでに終わらないこともあるでしょうが、それは内科の治療の方を優先させます。

「全ての歯科治療を終わらすべき」とはなっていますが、今のところ、顎の骨に関連しない治療に関しては、おそらく骨吸収抑制薬使用後でも大丈夫であろうという見解です。

歯科治療はどのように受けたらいいの?その②すでに服用しているが抜歯をはじめとする顎の骨に関連する治療をしなければならない時

骨吸収抑制薬は飲んでいるけれども、どうしても抜歯が必要…という事も出てくるかと思います。そうなった場合、以下の3点を厳守することにより、抜歯を含めた顎の骨に関係する治療が可能です。

徹底した口腔内清掃

まずは、顎骨壊死の起こりやすいリスクを取ることから始めます。

顎骨壊死が起こる原因として最も考えられるものが細菌の感染です。

細菌の感染を防ぐにはまずお口の中を清潔にすることが一番になります。ですので、まずはブラッシング指導をはじめとした患者さんへの教育、その次に歯石やプラークなどを取り除く治療を行い、口腔内の細菌を徹底的に少なくします。

術前からの抗菌剤投与

そして、感染を最小限にとどめるために、抜歯処置などの術前から抗菌薬を処方し、患者さんにあらかじめ服用しておいてもらいます。

口腔粘膜で抜歯窩を完全に閉鎖する

抜歯の処置が終わった後、通常の抜歯は抜歯の穴をそのままにして、カサブタになるのを待つのですが、この場合は、抜歯の穴をお口の中の粘膜を縫い合わせ、閉鎖することによって外から細菌等が入るのをシャットアウトします。

 

各種学会の方針(ポジションペーパー)としては上記3点を守れば抜歯は可能、とされてはいますが一般の開業医さんでどのくらいカバーできるかはそれぞれ異なりますので、かかりつけの医院で行うか、紹介になるかはそれぞれの医院の方針で異なってくると思います。

自己判断で休薬するのは絶対にやめてください!

飲んでいるのを止めたらいいのかな、と思って出されている骨吸収抑制薬を飲むのを止めるは危険ですので止めてください。骨吸収抑制薬の種類によっては休薬するとリバウンドで以前より骨密度が減ってしまう場合があります。

現在は休薬せずに上記のことを守って治療を行うケースが増えてきています。休薬が必要かどうかに関しては、かかりつけの医師、歯科医師同士が連絡を取り合って決定しますので、自己判断で休薬だけはしないようにしてください。

歯科治療を受ける前は要注意!点滴の内容はお薬手帳に書いていないことがあります。点滴でこれらの薬を使用している人もいます。

歯科医院ではお薬手帳を確認して、出来るだけ薬のチェックをして治療に臨むようにしていますが、実は、静脈注射で身体に入れている薬に関してはお薬手帳に記載されていないことがあります。

骨粗鬆症という状態やお薬に関しても、患者さんには今の状態やどの薬がどういうものなのかが分かりにくく、治療を受けていても何の治療なのか分かっていない場合もありますので、「ひょっとして‥」と心当たりのある治療を受けている場合は、その旨とかかりつけの医院のお名前を歯科治療の前に申し出ていただくとお互いに安心して治療に臨めます。

 

普段のお口の中も清潔に保ちましょう

一例ですが、ランマークで治療中の方に向けたお口のケアのパンフレット

あごの骨壊死を防ぐために

 

の中に、顎骨壊死を防ぐための手立ての一つとしてお家でのケアの方法も記載されています。

先ほども書きましたが、骨吸収抑制薬を使用している時はお口の中の細菌が顎の骨にとって一番の脅威となりますので、是非ともお口のケアを見直してみてください。

 

★低刺激設計のラインナップのオーラルケア商品★

この商品は癌の放射線治療後の方が使用しやすいように作られた商品なのですが、低刺激設計ですので、お口のトラブルを抱えた方にも良いラインナップかと思います。

この歯ブラシは毛先には、荒れたお口の中や歯ぐきにやさしい、弾力性に優れたスーパーウルトラソフト毛を採用されています。また、薄さ2.5mmととても薄いヘッドなのでお口の奥の狭いところも磨くことができます 。

この歯磨き粉は敏感なお口をやさしく洗浄できる商品設計になっています。荒れたお口の中や歯ぐきにもしみにくい、香料や発泡剤などが低刺激な材料を使用しています。お口の中に刺激を受けやすい方でも安心して使用できます。

保湿成分を配合しているので乾燥を感じる方にも使用しやすい洗口液です。希釈(うすめる)タイプです。お口の乾燥が気になる方や、乾いた食品が食べにくい方におすすめです。

 

参考文献:

骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016

日本口腔インプラント学会誌 第30巻第3号 191-199

 

いかがでしたか?少しでもお役に立てれば幸いです!

 

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