保険診療で受けられる最新の歯科再生医療「歯周組織再生剤」リグロスⓇとは。薬のメカニズム、治療法、保険適用などについて

歯周病

「歯周病で一度失われた歯茎の骨は戻らない・・」

「歯周病」という病気は食い止めることが出来ても、歯周病で一度失った歯茎の骨をはじめとした歯周組織は元通りには戻すのは難しい、というのが今までの歯科医療の通説であり、課題でした。

歯周組織を元通りにしたい、という思いで、歯科の業界で歯周組織再生療法が試みられ、いくつかのデバイス(GTR法、エムドゲイン法)が開発されてきました。

そのような中、再生医療の「サイトカイン療法」を用いた医療用医薬品「リグロス」が2016年12月から保険適用で治療に使用できるようになりました。

今回はこの歯周組織再生剤、リグロスについて、どのようなメカニズムの薬なのか、どのような人に使用可能か、費用、効果について解説したいと思います。

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そもそも歯周病とは

そもそも歯周病とは

関連記事↓にも記載したのですが、

 

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歯と歯ぐきの間に歯周病菌という歯茎の骨を溶かす作用を持つ菌が住み着き、増殖することで歯茎の骨を溶かし、そのため歯茎が歯を支えられなくなり、放置しておくと最終的には歯が抜けてしまうという病気です。調査によると。軽症の人も含めると日本人の約8割がこの病気に罹っているとされています。

歯周病は歯周病菌を完全に取り除くことにより、その病気を食い止めることが出来ます。

しかし、食い止めることはできても一度失った歯周組織は失われたまま、という現実がありました。

失われた歯茎の骨をはじめとした歯周組織を元通りに回復させるべく、今まで研究や開発がされてきたのですが、

今回新たに、”bFGF”というサイトカインを用いた薬を用いることにより、歯周組織の回復が見込める方法が開発されました。それがリグロスです。

「歯周組織再生剤」リグロスはどのような薬なの?

元々「歯周組織の再生」に使用されているデバイス(歯科材料)はありました。

実は、このリグロスが開発される前にもいくつかの歯茎の骨をはじめとする歯周組織を再生する方法はありました。GTR法やエムドゲインといった方法です。

GTR法

GTR法

GTR法とは、歯茎を手術で開き、歯茎の骨の失われた部分の上に特殊なシートを設置し、また縫い閉じることにより、歯茎の骨の空いたスペースに余計な細胞が入ってこないようにすることで本来そこにあった歯周組織が再生しやすいように促す方法です。GTR法はテクニックが必要な方法で術者の腕で効果が左右されるのと、一度に多くの場所の治療が困難であるなどの課題がありました。

エムドゲイン法

Emdogain法

エムドゲイン法とは歯茎を手術で開き、歯茎の骨の失われたスペースにエムドゲインと言われる幼若なブタの歯胚(歯になる前の歯茎に埋まっている状態の歯)から取り出したたんぱく質を配合したジェルを充填し、歯周組織の再生を促す方法です。

「幼若なブタの歯胚から抽出されたたんぱく質は歯周組織の再生を促す」という研究結果から開発された方法なのですが、作用のメカニズムが不明確なのと、人とは異なる生物のたんぱく質を利用するという種類の方法であり、インフォームドコンセントに注意を要する課題などがありました。

リグロスはbFGFというサイトカインの力で歯ぐきの再生を促す薬です

リグロスは再生医療に基づいた考えで作られた薬です。

再生医療は以下のような考え

再生医療は自分自身の細胞や他人の細胞、あるいは他の動物の細胞に対し、細胞の外から何らかの工夫を加えてその細胞の持っている能力を身体の中で発揮させ、機能を回復させる治療法です。

(NPO法人再生医療推進センターHPより)

 

をベースに研究開発されています。

 

歯周組織に対してのアプローチにあてはめて考えると、「何らかの工夫」が歯茎に存在する細胞に働きかけて、歯茎の骨が無くなった部分に歯茎の骨をはじめとした歯周組織を元通りに近い形で再生させる、という事になります。

「何らかの工夫」とは一体どのようなものなのでしょうか。

リグロスによる再生療法ではサイトカイン、という細胞が分泌するたんぱく質の働きを利用しています。

サイトカインとは?bFGFとは

細胞の分泌する、サイトカインというたんぱく質は近くの細胞に働きかけて色々な命令を出します。例えば「もっと増えなさい」とか「こういう細胞になりなさい」とかです。

たくさんの種類のサイトカインが存在しているわけなのですが、特にbFGFというサイトカインは、歯周組織に存在すると周りの細胞に働きかけて、失われている部分に関しては元通りにしなさい、という指令を出します。

なので、骨だけが増える、というのではなく、もともとあった歯周組織に関しても元通りに再生しようとします。

そのメカニズムに着目し、bFGFを歯周組織の再生の薬として研究開発したのが、リグロスなのです。

リグロスは歯茎をめくり、歯茎の骨の失った部分に直接注入するタイプの薬です

「薬」といっても飲み薬や注射など、色々とありますが、リグロスはどういったタイプの薬なのでしょうか?

リグロス歯科用液キット

リグロス歯科用液キット

 

リグロスは歯周病で失った歯茎の骨のあったスペースに直接注入して効果を発揮させるタイプのお薬です。

ですので、リグロスを使用する時は上記の図のように「フラップオペ」と呼ばれる失った歯茎の骨の周りの歯肉をめくり、骨が失われたスペースを一旦露出させて注入する必要があります。

歯周組織再生剤リグロス

また、リグロスを注入する部位が歯周病菌や歯石などの汚れ、炎症の起こった肉芽で汚れて居たら効果が発揮できないので、リグロスを注入する前には上の図の右端のような「スケーリングルートプレーニング」と言われる歯と歯茎回りをきれいにする処置を行うのが鉄則です。

リグロスは保険の範囲で使用できます。(保険適用)。

リグロスは2016年11月に薬価収載され(保険診療として許可が下りたということ)ていますので、保険診療として治療を受けることが出来ます

リグロスの気になる費用は?

費用については、

リグロス単体では使用する薬剤の多さにより、保険点数(1点10円)で

2067点もしくは2780点です。

しかし上記の通り、リグロスを用いた治療を受ける際はプラップオペレーションという手術を受ける必要がありますので、それが

1歯につき630点です。

これは点数なので、実際に患者さんが支払う費用としては点数を10倍して、自分が加入している保険の自己負担分を掛けると算出できます。

上記に記載したのは手術と薬剤の費用のみですので、もちろんこれ以外にも管理料や追加で行った処置の分だけ費用が追加されます。

リグロスを使用する為に必要な治療について

「私歯周病だからリグロスで骨を再生してもらおう・・」と思って歯科医院を受診しても、リグロスでの治療単体で治療を受けることはできません(少なくても保険診療では)

なぜならば、リグロスは日本で決められた歯周治療の方法の一部分として認められているので、しかるべき歯周治療を一通り受け、その上でリグロスでの治療が必要だ、という事を歯科医師が判断した上で可能となる治療だからです。

日本の保険では、歯周病治療とはこのような流れで受けます。という事が決まっています。

歯周ポケットの検査(1回目)診断
歯磨き指導、歯茎の上の部分の汚れの除去(スケーリング)
歯周ポケットの検査(2回目)
歯茎の下の部分の汚れの除去(スケーリング ルートプレーニング)
再評価
歯周ポケットは改善された(3mm以下)場合は メインテナンス
改善されなかった場合(4mm以上)は修正治療 (補綴、歯周外科など)
(本当はこれ以外にも噛み合わせの改善、かぶせ物の改善、など色々含まれます)
歯周病は検査、診断をして原因(プラークや歯石)の除去、その後改善が見込まれたかさらに再評価します。
歯周病は、1歯1歯の各部位ごとに評価されます。歯と歯ぐきの間にある「歯周ポケット」と呼ばれる部分の深さが4㎜以上か、出血はするかなどで判断します。
リグロスを使用した治療は検査、診断後、歯茎の汚れをすべて取る処置や再評価をすべて行った後に判断され、必要な場合にのみ実施します(赤字の歯周外科に該当)。
なぜなら、歯茎の汚れを取るだけで歯周ポケットが改善することが多いからです。術前に歯周ポケットが深くても、歯茎の汚れを取る治療を行った後に3mm以内に収まれば、歯周ポケットの底が歯周病菌の温床になることなく健康に保てるからです。
しかし、汚れを取っても歯周ポケットが深い場合は歯周病菌により骨を大きく失っていると考えられるので、ここではじめて再生療法をはじめとした歯周外科が必要であるかどうかという判断が下せます。
ですので、歯周再生療法であるリグロスの治療を受ける場合はこれらの歯周治療を一通り受けることが必須であるといえます。

どの歯科医院でも治療は受けられるの?

フラップオペを含む歯周治療に関しては歯科医師のライセンスがあれば実施することは可能です。リグロスの使用に関しては歯科の先生は購入に際してイーラーニングを受講する必要がありますので、しかるべき手続きを踏んだ先生のみ購入可能です。

ですので、その歯科医院がリグロスを購入できる手続きが出来、入手していたら治療を受けることが可能です。

しかし、プラップオペや歯茎を開けた後の汚れの除去には経験を要しますので、歯周病学会の専門医、認定医など、歯周病に長けた先生の元で治療を受けたほうがベターだと思います。

 

以前にお口の中悪性腫瘍があった方、悪性腫瘍のある方は使用できません

リグロスは局所的に使用する薬剤ですので使ってはいけない事例(禁忌)は少ないのですが、口腔内に悪性腫瘍のある患者さんや、以前にあった方には使用できません。なぜならこの薬剤は細胞を活性化させる作用を持っているために、悪性腫瘍も同様に活性化させてしまう恐れがあるからです。

リグロスは今までの再生医療よりも優れた点も多いです。しかし「歯茎の骨の再生の万能薬」ではありません

リグロスは今までの再生医療に用いられていたGTR法やエムドゲイン法より安全かつ簡便な方法であると言えます。

また、臨床成績も良く、エムドゲイン法とリグロスを用いた方法でそれぞれ手術を行い、36週後にどれくらい歯茎の骨が増加しているかの比較試験を実施したのですが、(236症例)リグロスが平均1.9㎜増加しているのに比較し、エムドゲインは1.3㎜で、有意にリグロスのほうが骨が増加しているというデータも得られています (ちなみにフラップオペ単体の場合は0.676mmの増加)

 

参考論文 Kimura M,et al.:J bone Miner Res, 31(4):806-814 2016

 

このような結果から、従来の歯周再生療法よりも良い結果が期待できそうです。

しかし、リグロスも万能薬ではなく、歯茎は全体的に痩せて、下がってきた(専門的には水平的骨吸収)には効果がなく、あくまでも「一部に出来てしまった穴のように減ってしまった骨」を「穴を埋めるような、元の高さ(に近い所)まで戻す」という作用に現在のところとどまっているようです。

多くの人が気にしている「歯茎の下がり」を改善するにはもう一工夫が必要で、そこまで改善されるのはもう少し先の話になりそうです。

 

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いかがでしたか?リグロスについての知りたい情報はあったでしょうか?

少しでもあなたの知りたい情報をご提供できましたら幸いです!

 

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