
最近噛めないから柔らかいものばかリ食べてしまって・・。そうしたらますます食べにくくなってきたし、最近は食べることが億劫になってきたよ‥。
このようなことを感じていらっしゃる方、ご家族から聞く方増えてきているかと思います。
現代の日本は超高齢化社会になってきており、高齢化に伴う健康の変化について、今まで注目されて来なかった事象が注目を浴びるようになってきました。
その中の一つが「お口の衰え(オーラルフレイル)」です。
お口の衰え(オーラルフレイル)は高齢者の中で多く見られ、そのために健康的な生活を送るのが困難になっているという事が近年分かってきました。

巷では色々な情報が記載されていますが、歯科の臨床をしている私からして、何故か「改善するために本当に行わねばならない」事柄については書かれていないように思います。

その部分にもバッサリ切り込んで、対処、予防法を書いてみたいと思います!
自分も「オーラルフレイル」かも思い当たる節のある人はぜひこの情報を活用してくださいね。それでははじめていきます!
オーラルフレイルとは
そもそも「フレイル(衰え)」とは
現在の日本は超高齢化社会。平均寿命も以前と比較して高くなってきています。
そのような社会では高齢者の方が健康で自分の力で生活ができることが重要になってきます。
よって、高齢者の健康状態を維持するためにも高齢者がどのような経過を経て介護が必要な状態になるのか、という詳細な知見が研究、調査されるようになりました。
調査研究が進んだ結果、実は高齢者の方が健康な方が急に介護が必要になる、というのはどちらかといえば少数で「介護が必要な状態」と「健康な状態」の間に中間段階「フレイル」という段階を挟んで健康な状態から介護が必要な状態に移行しているケースの方が多い、という事が分かりました。

これらは、ちょっと転びやすくなどの身体的虚弱、うつっぽくなるなどの精神心理の虚弱、独居などの社会的な虚弱など、さまざまな側面で構成されています。
不可能ではないが以前より心もとなく、弱ってくるといったニュアンスでしょうか。「フレイル」を和訳したら「衰え」という意味になります。
このような状態があると、徐々に自立的に生活する機能が衰えてしまい、そのため日常のちょっとしたきっかけで生活が出来なくなったり体の機能不全、介護状態に移行してしまいます。
このような「フレイル」という状態に「日本老年医学会」が着目し、2014年にこの言葉が提唱されるようになりました。
フレイルの意義とは
「フレイル」という状態に注目する意義としては、
このような状態を早期に発見して、適切な対処を行ったら、また「健康な状態」に引き上げることが出来る
所にあります。
本人や周りの人がいち早く気付き、その状態を改善するように対処したら、健康な状態に戻ります。
そうなると要介護状態など支援が必要な状態から遠ざかることが出来るはずです。
そのためにも「フレイル」という段階にいち早く気付くことが出来る社会、対応できる社会を作ることが今後の高齢化社会で介護が必要な人を減らしていくことが出来る大きなキーポイントとなってきます。
オーラルフレイルとは
「オーラルフレイル」とは「お口(オーラル)」の「衰え(フレイル)」です。
”お口が衰える”ってどのような状態なのでしょうか?
また、お口の衰えは全身の衰えも加速させることがフレイルの研究を通じて分かってきました。お口と全身の密接な関係について、またオーラルフレイルはどのようなものなのか、解説していきます。
なんとしても避けたい「サルコペニア」
もう少し、身体全体の「フレイル(衰え)」についてのお話をさせていただきます。
この「フレイル(衰え)」は千葉県柏市行われたで高齢者の大規模な調査、「柏スタディ」に端を発しています。
この調査研究で多くの事が分かりました。
身体的なフレイル(衰え)で衰えが悪化のサイクルをたどってしまう体の状態の一つに「サルコペニア(筋肉減少症)」というものがあります。
サルコペニア(筋肉減少症)は筋肉が衰え減ってしまっている状態で、1.低筋肉量 2.低筋力 3.低身体能力の3項目で診断されます。
この状態になると、動くのが億劫で疲れやすくなり、そのため食欲も減少するため必要な栄養素が取れない、外出なども滞りがちになるので社会性も低下してしまいます。
ですので、「サルコペニア」は要介護の入り口となる可能性が高い状態ですので、なんとしても回避すべきと考えられています。
「サルコペニア」を防止するにはまず「食べる」こと
では、どのようにしたら「サルコペニア」を防止することが出来るのでしょうか?
その解決法の一つが「食べること」とされています。
1998年に厚生省の出した 高齢者の栄養管理サービスに関する報告書によると、
高齢者施設入居および在宅療養者の約40%は低栄養状態
高齢外来患者の約10%は低栄養状態
であることが分かっています。
筋肉を作るのはたんぱく質ですので、しっかりと摂取しないと筋肉がどんどん落ちてしまいます。
それを防ぐためにも「しっかりと食べる」という事はとても重要なのです。しかも、出来れば柔らかいものではなく、しっかり噛んで食べるような食物を食べることが重要です。
「オーラルフレイル」は「しっかり噛んで食べる」機能の衰え
これらのことより、サルコペニアをはじめとする身体的なフレイルを考えるときは
「しっかり噛んで食べる」
というのが重要になってきます。
しかししっかり噛んで食べる機能をつかさどる「お口」ももちろんフレイルが起こりうる可能性を秘めており、「お口」機能の衰えのことを「オーラルフレイル」と言います。
虫歯や歯周病によって歯を失い、上下の歯が噛み合わせているところが無くなってくると、お口の筋肉の力が低下し、噛む力、飲み込む力が弱くなってしまいます。
そうなると、今まで食べることが出来ていた硬いものが食べられなくなったり、食べこぼしやむせなどのために食欲そのものが減退してしまいます。
そうなると、低栄養になり、ますますお口の筋肉をはじめとする身体全体の筋肉が衰えてしまうという悪循環に陥るのです。
このように「オーラルフレイル(お口の衰え)」はお口だけにとどまらず、全身の状態にも影響を及ぼすので、特に気を付けて取り組んでいかなければいけない課題であると認識されています。
オーラルフレイルに特徴的なお口の症状
オーラルフレイルははじめは軽微な変化ですので、気が付かない方も多いかもしれません。
オーラルフレイルに関して啓発活動を行っている日本歯科医師会のホームページには
この「オーラルフレイル」の始まりは、滑舌低下、食べこぼし、わずかなむせ、かめない食品が増える、口の乾燥等ほんの些細な症状であり、見逃しやすく、気が付きにくい特徴があるため注意が必要です。
(日本歯科医師会HP 啓発活動 オーラルフレイル)
とあるように、
- 噛めない食品が増える
- しゃべりにくくなる
- 食べこぼし
- わずかなむせ
- 口の乾燥
など、「年を取ったからかな…」と対見逃してしまいそうなお口の兆候がオーラルフレイルの始まりなのです。
見逃していませんか?”歯科医師だからこそ”伝えたいシンプルな「オーラルフレイル」対策
「オーラルフレイルの対策」についてインターネットで検索を行ったら、その対策法の多くは「お口の筋肉を鍛える」「お口の中に関心を持つ」という事が大半でした。
これらの事は本当に大事なことだと思います。しかし、それよりも前にもっと強調されておくべきことがあるように私には思います。
それはどういうことかというと
「そもそもお口の中に歯科的なトラブルがあって噛める状態になっていない方が大勢いらっしゃる」
という事です。
何故か、この大前提に関しては「お口の中を健康に保つ」くらいのニュアンスで切り込んで書いているサイトはあまり見当たりませんでした。強いて言うなら日本歯科医師会のページ位でしょうか。
咀嚼、嚥下などの機能改善のための運動も口腔内が整った状態であるからこそ向上する。お口の中の噛む部分がしっかり整って、それからの話
咀嚼、嚥下機能を高めるために筋肉を増強させるための機能訓練をする、というのはもちろんとてもいいことだと思います。
しかし、健全なかみ合わせで普通にお食事をとる、しゃべる、などの日常生活を行って筋肉を使う事に勝るとは思いません。
もしお口の中にしっかりとかみ合わせる部分がなく、もしあったとしてもその部分が痛くてとても噛めないような状態があって、オーラルフレイルの兆候が見られるのであれば、まずはしっかりと噛む事の出来るお口を歯科医院で作り上げていくことが何よりも先決になると思います。
「オーラルフレイル」を作るお口にならないために、歯科医院で行うべきこと
私が一番心配するのは、「何とか歯科医院に行かなくても済むようにする」ためにインターネットで調べて、その情報を基に家で我流で養生することです。
オーラルフレイルに関して、「歯科医院に行かなくても済みそうだ」とややもすればそう受け止められる方がいらっしゃるかもしれませんが、やはりそれ以上悪化する前に適切に対処するためには
歯科医院への通院は絶対だと思います。まずはそこからです。
その①痛い歯、トラブルのある歯を放置しない!抜くべき歯は抜歯する!
では歯科医院ではどのようなことをするの?という事ですが、まずは、「痛い歯をなくす」ことです。
歯が痛い、ぐらぐらするなどのトラブルがあるとそもそも通常の力で噛めません。
虫歯であれ、歯周病であれ、歯が痛いと噛めません。また、痛い以外にも「ぐらぐらする」「出血する」「たまにすごく痛いけど少し時間をおいたら治まる」などトラブルのある歯を放置しておいてはいけません。
抜くべき歯は抜くほうが良いその理由
特に、歯医者さんに行きたくない人で良くあるのは、「歯医者さんに言ったら無理やり歯を抜かれる」と考えている人です。
ちょっとぐらぐらしているだけで、たまに痛いけどまた良くなるし‥で、自然に抜けるまでおいておきたいと思っている人もいらっしゃるかと思います。
でも歯医者さんは無理やり健康な歯を抜いている訳ではないのです。
「自覚症状がないのに抜かれてしまう歯」というもので多い原因としてその歯が「歯周病」であるという場合が良くあります。
このようなケースの場合、痛くなくても歯の周りの骨はすでに歯周病菌によって溶かされて、骨の支えが無くなっている場合があります。
このようになってしまった場合、歯は歯周病菌の感染した歯茎のお肉(不良肉芽)に刺さっているだけの状態になっていますので、例え歯周病の治療を行っても健康な状態には戻りません。
そのまま放置しておいたら、そのうち身体はその歯を「異物」と認識し、炎症を起こして追い出すようになります。そうなると自然脱落します。
では自然脱落するまでほおっておけば‥と思うかもしれませんが、自然脱落する前に何回も炎症を起こします。その度に歯の周りの歯茎の骨は炎症の作用でダメージを受け、少なくなっていきます。

ですので、「この歯は残せない」と思った時点で抜歯する時と、自然脱落するまでおいておいた時とで歯茎の骨の残り方は随分変わってきます。

もし、この歯の隣に歯があったとしたら、その歯を支える歯茎の骨まで溶かしてしまったりするので、1本失う事で済むはずだった歯が放置しておいたために複数本失うはめになることもあります。
ですので、他の健康な歯に影響を及ば差ないようにするためにも、歯医者さんが「抜くべき」と判断した歯は抜いたほうが良いのです。
その②歯の欠損は放置しない!しっかり補い(補綴)「噛める」お口にする
状態の悪い歯は治し、抜くべき歯は抜いて、それで終わりではありません。そのあとにしっかりと歯のない部分に何らかの処置をほどこして補う事が重要です。
ヒトの噛む力はとても大きいです。
奥歯でしたら成人男性一人分の(60㎏以上)もの力が罹っています。かみ合わせを失い、数少ないかみ合わせしか残っていない場合、このような大きな力を残った少ない歯で負担することになるので、残った歯に非常に大きなかみ合わせの力がかかってきます。
こうなると負荷が大きすぎてその歯が耐えられなくなり結果抜けてしまうような歯のトラブルが生じてしまう事が考えられます。
ですので、かみ合わせる力を出来るだけ分散して、残っている歯が耐えうる範囲内の負荷で済むようにするためにも、きちんと歯を失ったところもブリッジ、入れ歯、インプラントなどの何らかの歯を補う方法で補ってあげて、きちんと噛めるお口を作ることが大事になってきます。
なぜこの「シンプルで簡単な真実」が広まっていないのか?(ここからは推測)
オーラルフレイルのことに関して言及しているホームページを見るにつけ、オーラルフレイルは歯医者さんに行ってしかるべき治療を行って、そこから始まるのが大前提なのに、歯科医院への通院への促しはさらっと流しているなあ、という印象をぬぐい切れませんでした。
もっと歯科医院に行ってください、と積極的に言ったらいいのに、と思ったのですが言えていない理由についてここから先は私の勝手な推測なのですが、考えてみました。
実は保険診療では入れ歯が「噛める」ところまで担保していない
このようなオーラルフレイルを起こしている人は残っている歯の数も少なく、高齢者なので全身状態のことを考えると、歯を補う処置は「入れ歯」になるとおもいます。
しかし、入れ歯というのは実は「噛める」所まで保険が担保していないのです。
入れ歯を作って装着した後に、かみ合わせや床の合い具合をチェックするのですが、その時の保険点数の算定が 「新生有床義歯管理料」という部分になっていて、これは装着した月に1回しか適用できません。言い換えると、入れ歯は作った後の調整は1回しか保険の範囲内で認めませんよ。ということなのです。
とはいえ、入れ歯が噛めるようになるまでは何回か調整は必要の場合の方が多いのではないのでしょうか。この保険点数に関しては色々議論されたうえで今のような形になっているようなので、今後なかなか現状が変わるようになるとは思いませんが、どうにかならないものか、と思っています。
実際に保険診療範囲内で「噛める」ところまでもっていくことが難しい患者さんがいることも事実
また、保険点数上の問題以外にも、お口の中の状態によっては保険診療の範囲内の治療だったら「噛める」というところまで回復できることが難しい患者さんがいらっしゃることも事実です。
例えば、入れ歯のようなお口の中に異物が入れておくのが困難な人の場合は保険診療外のインプラントなどの選択になってきますし、顎の骨が極端に減少してしまっている人の場合は入れ歯を入れても安定させるのが難しい、などといったこともあります。
関連メーカーは歯科治療の内容まで言及できない
そもそも、どのような立場の方がこの問題の情報発信をしているのか、という所でも情報のトーンが変わってきます。
例えば、歯科治療を行わない、口腔ケア関連のメーカーに関しては、治療の内容まで言及することはできないでしょうし、核心に踏み込めないとなると、どうしても機能回復の訓練や周辺グッズなど、「健康範囲」のおすすめ中心とした情報発信の構成にならざるを得ないのだと思います。
結局実際に診療をしている歯科医師が声を挙げていくしかない
そういうことを考えると、

この問題で情報発信をしていくのはそのようなことにとらわれない市井の歯科医師たちが声を挙げていくしかないのかな、と思います。
このようなインターネットを利用することも一つの方法ですし、地域での取り組み、訪問先の施設などでの地道な啓蒙活動が大事になってくるように思います。
今、健康で残せる歯をお持ちならそれをずっと保っていく努力を!
ここまで、対策や対処法についてお話をしてきましたが、もう一つお伝えしておきたい内容としましては、

「健康で残せる歯は残す努力をぜひして欲しい」という事です。予防です。
ではこの予防方法はどのようなことかと言いますと、

やはり「歯科医院に来てほしい」という事に尽きます。
「失った歯を補う」治療は万能ではない。「噛める」ように補うのは難しい場合も。
「歯を補う方法がある」と聞くと、「では失ってからでいいや」と思うかもしれません。
上記でも少し触れましたが、
歯科医院に来たらすぐさま「噛める」ように補うことが出来る程、治療は万能ではありません。
状態によっては難しい場合もあります。
補う治療を行うためには時間も、患者さんの忍耐もある程度必要になってきます。
ですので、今ある健康な歯を健康なままで残していってほしいのです。
だからこそ「失わない」ための「予防」が大事!
実は、健康な歯を健康なまま残すのはそんなに難しい話ではありません。
どうすればいいかというと、

一つは「歯科医院に数か月に1回来院すること」ともう一つは「日々お口の中のお手入れをする」という事です。
特に「歯科医院に数か月に1回来院すること」を続けるのはかなり効果的です。
数か月に1回の歯科医院への通院で何をするかというと、歯科検診と歯のお掃除を行います。
歯科検診によって虫歯や歯周病が進行していないかを確認し、その後歯科医院で使用する専用の器具(超音波スケーラーなど)で歯と歯ぐきの間の汚れ(プラーク)を取り除きます。
超音波スケーラー 超音波の振動でプラークや歯石などの歯や歯茎についている汚れを除去します。
振動で取るので痛みなどはほぼありません。
少なくとも普段の歯のお手入れに歯科医院への通院をプラスオンするだけで歯を残せる割合が随分と変わってきます。
「噛めない」と感じたら歯科医院に行きましょう!
繰り返しのことになりますが、「オーラルフレイル(お口の衰え)」も、結局のところ歯科医院に行くことにより改善する部分が非常に多いです。

少なくとも、今噛めない原因がお口の中の、特に歯のコンディションに起因している場合は歯科医院に行かないと解決しません。
ですので、「噛めないな」と感じた時は、まずは歯科医院に行って、歯医者さんに相談しましょう。そうすることによって、あなたが思っている以上に早く問題が解決する場合があります。
思い当たる人はぜひ一度勇気を出して行ってみてください。一日も早くあなた、あなたの周りの大切な人の問題が解決することを応援しています!
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