歯医者さんの道具ってすべて右手で使う仕様になっているようにみえるけど、左利きの歯医者さんっているのかな?
と疑問を持っている方、いるのではないかと思います。
将来歯医者さんを目指したい、と思っている人のなかにもそのように思ってどうしようか悩んでいる人、すでに歯学部の学生さんになっていて、この先どうなるんだろうと不安に思っている人なんかもいるのでは?と思います。
私もそうでした。
実は、私はお箸も鉛筆も左という生粋の左利きです。
歯学部に入る前、実際に入って勉強している最中
将来全然歯医者さん出来なかったらどうしよう・・
と未来に怯えていましたが、今となっては普通に歯医者さんが出来ています。
むしろ両手が使えて便利です。
インターネットで調べてみても私のような左利きの歯医者さんの体験談というのはあまり見かけないので今回書いてみようと思います。
意識が猛烈に高くもなく低くもない私の場合
左利きというハンデを乗り越えてまで歯医者さんになろうっていうんだから特別に意識が高くて参考にならないんじゃないの?
と、訝しく思う人もいるかもしれませんが、私は臨床に関しては至って普通のモチベーションの学生でした。
歯や歯の治療に興味があるから歯学部に行きたい・・。でも左利きだから大丈夫なんかなあ。でもなりたいんだからなっちゃえ。将来の私になんとかしてもらおう。
と、バカあまり重く考えることもなく入学しました。
左利きの人あるあるですが、なんやかんやで右手を使わざるを得ない事が多いので、箸と鉛筆は左手ながら、右手しかダメなものとか、配置が右だから右手を使っているという事が多かったので、「やらなきゃいけなくなったらできるだろう」と思っていました。
学生時代
学生のときは不安だらけ
そんな私ですが、学生になったらだいぶ不安でした。
特に不安だったのは実際ポリクリなどで診療を見学できるようになって
おもったより診療ってスピード早いし細かいな
と感じたところでした。
しかし、あまり意識して右手を使うということもせず、普通にレフティーライフを送っていました。
人に相談すると「矯正した方がいい」
また、不安になるのは先輩や先生に「私左利きなんです」
と相談すると
歯科は右手しか使わないから今のうちに右手に矯正しておかないと不便だと思うよ。
とご意見をいただく事が多く、更に不安になりました。答えてくれる人の多くは右利きの人でしたが、数少ない左利きの人に聞いたらそれにプラスしていかに苦労して矯正したかの話までついてきました。
中には
右手を使う練習手伝ってあげる!印象練りからね♪
と、ひがな一日印象練りを行い(でも出来ず)ダメ出しをもらう、という稀で地味に辛い経験もしました。
(練習に付き合ってくれたことは本当に感謝しています。彼女が共有したかった「やれば出来た!」という成功体験を叶えることが出来ない自分がほんとみじめでした・・。)
そんなこんなで左利きの私、のことを考えると非常に暗い気分になってました。
学生実習は難なくこなす
そんなこんなしているうちに学生実習が始まりました。
学生実習は案外すんなりこなせました。
入れ歯を作成する実習に関しては全然右左関係ないので左手を使っていました。
模型実習というマネキンを使ってインレーやクラウンを形成する実習は、時間が存分にあるので、底までの難しさは感じませんでした。
ちょっと難しかったのは歯周病関係の学生実習です。歯周ポケットを測定する道具である、プローブを自由自在に動かすのがとても難しかったです。加えて超音波スケーラーやエキスプローラーなんかも自分の持っていきたい位置に持っていける様になかなかなりませんでした。
一診(臨床実習生)もそこまでの困難さは感じることなし
そんなこんなで模型実習をこなし、学年が進んでいくと、次は大学病院での臨床実習がはじまります。
私たちの時代は自分がたくさん患者さんの診療に当たる、というよりも、ライター(指導医)の見学を診て、たまに触らせてもらい、レポートを書いてハンコをもらうスタイルになっていました。
レポート書きや配当患者さんについて回る生活は多忙でしたが、実際に患者さんを診る、という機会は経験値としてはあまり積めていなかったと思います。
今考えたらこの頃もう少ししっかりとやれれば良かった…。
このツケが研修医のときにやってきます。
若手歯科医師時代
「実は全然患者さんを触っていない」という時限爆弾を抱えていることに気が付かず、国家試験に合格し、晴れて歯科医師の免許を頂き研修医となりました。
ここから先はしばらく地獄を見ます。
研修医のときは辛かった
「今時の研修医はやっていない」ということを聞いてはいたものの、私を教えた先生はきっと驚いたと思います。
右手だと、
- スケーラーは使えない。
- プローブも出来ない
- インスツルメントもその部位が触れれてない。
- セメントや歯石を弾くなど、力のかかることができない。
などなど。。
・・・・
きっと指導医の先生も唖然としたでしょう。色々と指導をしてくれました。
さすがの私もヤバイと感じ、毎日残って自主練はしていましたが、なかなかうまくはならず。
少し向上したか、と思っても土日など休みを挟むとまたもとに戻っている、という恐ろしい事態になっていました。
その施設には1年いたのですがいる間はずっともたもたとしていました。
研修医でただでさえ覚えることがたくさんで体も頭も動かない上に普通のことができないというのは本当に地獄のように辛かったです。
一番申し訳なかったのが、皆さん一生懸命に教えてくださるのですが、腕がその通りに動かなくて、教えてくださった方もあまりの学習効果の低さにがっかりしている様が伝わってくることでした。
申し訳なさすぎて泣きたくないのに泣けてきました。
研修医を終わり次の職場に
本当に申し訳無さと自分の出来なさで「消えてしまいたい」と思っていた研修医時代でしたが、期間が決まっていたのでその施設を去ることになりました。
その次働くことになった職場は、全然出来ない事は申告しましたが、それでもOKということで了承してもらったので、なんとか迷惑はかけないように働こうと思いました。
実はタービンやコントラは案外早いうちに使えるようになっていた
驚くほど出来ない私でしたが、実はタービンやコントラは結構早いうちに普通の人と同じかちょっとゆっくり位に使いこなせる様になっていました。
タービンやコントラはせわしなく動かすものではなく、ゆっくり狙った所に当てていくものです。力もいりません。
利き手でない手の苦手ポイントは
- 力をかける
- 素早く動かす
- 狙った所に持っていく
だとおもいます。インスツルメント系の器具はそれを必要としますが、タービンやコントラはそのあたりの能力は必要ではないので、きっと早く慣れる事が出来たのでしょう。
ただ力がないとブレるので、筋力のない利き手でない手で扱うときは右利きの人以上にポジションやレストなど、手ががっちりと固定できていること大事になってくるとおもいます。
いっその事左手で使えるものは左で使うように
あまりに右手右手と考えすぎていて歯科で働くことが嫌いになりそうだったので、すこし方法を変えてみました。
タービンやコントラで右手は使えているのだから、全く右手を使うことを怠けているわけではない、と思ったので、
いっその事左手で使っても差し支えないものは左手をつかっちゃおう
ということにしました。
だってセメント弾くのに左手でエキスプローラ使ったって誰にも迷惑かけるものでもないですし。。
そんなこんなで配線上右で使わざるを得ない物以外は自分の使いやすい方の手を使いながら診療していきました。
この考えに変えたお陰で右利き矯正へのストレスとプレッシャーは格段に減りました。
しかも、このくらいのゆるい縛りでやっていっても、やっばり毎日タービンやコントラを使っていると右利きになってくるもんなんです
タービンやコントラを使うお陰で右手に筋力がついてきて、右手から左手に持ち替える面倒さよりも、
「これくらいなら右手を使えるな」っていう機会のほうが増えてきて、結局だいたいのものは右手で器具を使うようになりました。
現在
そして現在、とても快適です。
診療で左利き、右利きを意識することは殆どありません。多分私は両利きだと思います。
腕力が必要な、ヘーベルとか左で使うことが多いです。それ以外も使っても差し支え無いもの、「あーこの位置だったら左手でしたほうがやりやすいな」という時には左で使うことがあります。
よく考えたらデンタルミラーは右手で持つし、それ以外でも歯科診療は両手を使う機会が非常に多いので、両手を使える現在とてもとても便利です。
日常では変わらず左利きを貫いています。以前に比べたらだいぶ右手を使っていますが…。
右手は自分の中で「診療専用の手」といった位置づけです。診療以外で使いすぎないと腱鞘炎とかにもならないのでいい感じだなとおもっています。
「歯医者は左利きが不利?」問題に関しての所感
私は「あまり意識も対策もせず診療に臨んだ左利き」なので、たくさんの方にご迷惑も掛け、決して胸を張って話せる体験談ではありません。どちらかといったら「しくじり先生」系です。
ここでつまずく、とか、こうなる前にこうした方がいいなどのご参考にはなるかと思います。
学生時代にじんわり「そもそもマイノリティというだけでなぜ不都合を強いられなければならないのか」という反骨心もあってあまり右手を使わないでいましたが、、正直どこかで苦労する時期が出てくることは否めないです。
でも、おそらく2、3年で慣れます。
逆に言ったら2、3年はかかります。
この2、3年を研修医や若手歯科医師の時代より前倒しにしたい!という気概がある方は、早いうちから
- 力をかける
- 素早く動かす
- 狙った所に持っていく
ということを意識した運動動作や、とりあえず筋力はつけておいたほうが良いと思います。
また、はじめのうちは少し休むとすぐできなくなってしまうので、できるだけ毎日右手を使う方がいいとおもいます。
歯医者で左利きが不利な点
歯医者で左利きが不利なのは、やっはり研修医など、なりたての時です。
全くの左利きさんでしたらプローブ、超音波スケーラー、エクスプローラーなどはかなりの練習が必要になるとおもいます。
歯医者で左利きが有利な点
しかし、2,3年もしたら絶対慣れます。
そうなると本当に診療が楽です。
はじめの2,3年の地獄を越したら本当、なぜ私できなかったのだろう?となりますので、その日を目指してがんばってください。
左利きの後輩に向けての心の持ちようについてのアドバイス
左利きの人はただでさえ出来ないことがおおい研修医時代にもう一つクリアしないといけないことを持つことになるので、自分の自信や気持ちの持っていきようが難しいとおもいます。そんな貴方にアドバイスです。
これは私も感じているのですが、左利きの人は宿命的に人とは異なった努力が必要になると思います。でも少なくとも私の場合はいつもその努力は困難を乗り越えた時に色々な学びになって活きてきました。
なので、きっとあなたも今は苦しいかもしれませんが、得たものは得ようと思っていたもの以上の収穫になっているに違いありません。
また、運の部分もありますが、できることならば焦らず、自分に合わせた努力を継続できる環境で若手を過ごすほうがいいと思いますので、あまり右手左手に関してこだわっている所は避けたほうが無難かなと思います。相手が望むほど早くは成長できません。
たまに、右手で出来ないことを「劣っている」と感じている人がいます。「劣っている」のではなく「異なっている」ということを理解していない人からの干渉は聞き流したら良いとおもいます。
なんにせよ、他にも考えないといけないことが山ほどある若手時代ですので、利き手について考えすぎたら嫌になってきます。適度に左手を使う、など自分が折れない工夫をすることも大事だとおもいます。
そのうち持ち替えるのが面倒になるくらい右を使えるようになりますよ
あなたにそうなる日が来ることをお祈りしています!
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