
私が虫歯が多かったから、生まれてきた赤ちゃんには虫歯になって欲しくない‥。でも私、虫歯が多いし歯の悪さって遺伝するのかしら?
赤ちゃんに虫歯になってほしくない。。
でも自分には虫歯が多いし、この子を虫歯にしないようにお手入れできるのかどうかが不安・・・。
この願いは世のお母さんの大半が思っている切実な願いだと思います。
中には、そのようなお母さんの思いにつけこむように、「これだけで簡単、体にも安心」といった根拠のない商品が販売されていたり、闇雲に「フッ素は体に毒!」という根拠のない情報が発信されていたりして、

子供の歯のお手入れは、結局何が一番正しいんだろう・・・
とよくわからなくなるお母さんも多いことでしょう。
正直、歯のお手入れに近道、早道はないのですが、
今確立されている、歯医者さんが提唱している歯との付き合い方を守れば高い確率で虫歯になりにくい歯を得ることができます。
今回は、確実な「子供の歯を虫歯にしない」方法について書いていきたいと思います。
「虫歯になりやすい歯」と「虫歯菌の垂直感染」

そもそも、虫歯って磨いてなくても全然虫歯にならない人もいるし、磨いていても虫歯だらけ、って言う人もいるし、なんでこんなに人によって差があるの?遺伝?だったら自分が気をつけても意味ないんじゃ?
自分はすぐに虫歯になるのに、ある人は虫歯になりにくい・・・。
このようなことを感じられている人も多いのではないでしょうか?
虫歯は「遺伝」ではありません。
でも「親」から「子」へ受け継がれてしまう可能性が高いという側面をはらんでいます。
どういうことか?というと・・・

虫歯菌(ストレプトコッカスミュータンス)が唾液を介して親の口から子の口に入り、歯にくっついてそこで増えてしまう、ということです。

これを虫歯菌の「垂直感染」と言います。
もちろん虫歯菌は、「虫歯菌がいる」というだけでは虫歯になりません。
この図は、歯科の世界でよく使われている「keyesの3つの輪」と言って、虫歯が発生するために必要な3要素と、それが3つとも揃った時に虫歯が発生する、ということを表しています。
その3つの要素とは
- 虫歯菌の存在
- 砂糖
- お口の中の環境
です。
①虫歯菌がいて、②餌である砂糖(スクロース)があると虫歯菌が爆発的に増え、歯を溶かします。
これにプラスして、歯の質が弱いと虫歯が進みやすくなります。
こうやって虫歯ができていきます。

「虫歯菌の存在」は、お口の中にある菌の中でどれくらい虫歯菌の勢力が強いか、虫歯菌の性質、虫歯菌の量が多いか、というところが人によって随分個人差があります。

このあたりの個人差が「虫歯のなりやすさ・なりにくさ」というところに出てきてしまうんですね。

そして、虫歯菌の勢力の強さ、虫歯菌の性質、虫歯菌の量などは、垂直感染から影響を受けていることが多いです。
これが、歯の弱さって遺伝するのかしら?という疑問の正体です。
「虫歯にならない歯」は「垂直感染(虫歯菌が歯に感染・生着)」を防げばなれる
赤ちゃんのお口は歯が生えるまで細菌がいない状態です。
虫歯菌が感染しない限り、虫歯菌がゼロのままで過ごせます。
赤ちゃんを虫歯にしないようにするには、「お口の中に虫歯菌がいないこの状態をできるだけ保つ」というのが一番確実な方法です。
赤ちゃんのお口に虫歯が入る一番考えられる経路は赤ちゃんのお世話をしている周りの大人からの「垂直感染」です。
赤ちゃんのお口に、大人の虫歯菌の入った唾液がいかに入らないようにこの時期を過ごすかが虫歯になりにくい歯を作るキーポイントとなります。
赤ちゃんの歯(乳歯)には「虫歯に感染しやすい時期」がある

「赤ちゃんを大人の唾液に触れさせない」って、ずーっとしないといけないの?気が遠くなる・・・
と思われるかもしれませんが、けっしてずっとし続けないといけない訳ではありません。
赤ちゃんの歯が虫歯菌に感染しやすいのには、時期があります。
かつて赤ちゃんとお母さんのお口の中の虫歯菌を調べ、赤ちゃんの歯にいつ虫歯菌が住み着くのかを調べた研究があります。
最初の歯の萌出時期は6.8±1.4か月で,19か月では25%,31か月では75%が感染していた。すなわち、乳歯が萌出して1年後から2年後までの1年間に多くの小児が感染していた。
だいたい歯が生えてか1年くらいから2年くらいがいちばん虫歯菌が赤ちゃんの歯に感染しやすい時期だとしています。そして、その後以降は感染しにくくなるという結果になりました。
これはちょうど歯が生え始めてから生えきった時期に合致しています。
このように、虫歯菌の感染には時期があるので、この時期のことを研究者であるCaufieldは「感染の窓」と提唱しました。そしてその言い方は今でも歯科では使用されています。

ですので、特に「大人の唾液が口に入らないように気をつける時期」としては、歯が生え始めてから生えきった頃、3歳くらいまでをゴールと考えておいたら良いでしょう。
参考文献
Caufield P.W., Cutter G .R.,Dasanayake A.P.lnitial acquisition of mutans streptococci by infants:Evidence for a discrete window of infectivity. J Dent Res 1993 ; 72(1):37-45.
赤ちゃんの「虫歯菌に感染しやすい時期」に「虫歯菌に感染しない」と、その後も虫歯になりにくい歯に
このように、「感染の窓」の開いている歯が生え始めてから歯が生えそろう3歳位までの間は特に「大人の唾液」に注意をして過ごすと、その後も虫歯になりにくい歯を得られることができます。
「赤ちゃんが虫歯菌に感染しない」ようにする具体的な方法
これまで、「赤ちゃんのお口に大人の唾液が入らないようにするように」とお話してきましたが、では実際に具体的にはどのような方法を取れば良いのでしょうか?

以下に具体的な方法をあげていきますね
赤ちゃんに接する人の虫歯治療を済ませておく
一番確実なのは「赤ちゃんに接する人の虫歯治療を済ましておく」方法です。
お口の中に虫歯があると、虫歯がない状態と比べて虫歯菌が飛躍的に増えます。
その結果、唾液に含まれる虫歯菌が非常に多い状態になります。
逆に虫歯が治療済の状態だと、それまで虫歯が多かった人でも、虫歯菌の数はぐっと減ります。
口移しはしない
最近は母子手帳にも書かれているので、殆どないと思いますが、赤ちゃんが食べやすいようにとかんだものをあげる、口移しで何かを食べさせると言うことは避けてください。まさに垂直感染してしまいます。
カトラリーを分ける
お箸やお皿、スプーンなどは分けてください。
特に甘いものなどはわかる年齢になったらおねだりされるかと思います。
一口、あーんとあげたい気持ちはわかりますが
「甘いもの」と「お母さんの唾液」のコンボは虫歯菌が歯に生着するのに格好の環境とタイミングになってしまいます。
甘いものをあげること自体は悪くありません。
あーんとお母さんのスプーンであげる前に赤ちゃん用のスプーンを出して、大人の手を付けていないところをあげましょう。
キスなど大人の唾液がお口につくのを避ける
これもしたくなる気持ちはわかります。
軽いキスにしたり、ほっぺにしたりとキスに工夫をしてほしいところです(歯科医師的には。。キスの習慣のある人だったら難しいかもしれませんが。。)
どうしても、というのであれば、よく歯磨きをしてからにしてほしいところです。
虫歯菌や虫歯菌の餌(スクロース)がお口の中にとどまらないようにする
ここからは、虫歯菌の感染予防、というよりは、お口の中で虫歯菌を増殖させない、先程お話に出てきたKeyesの3つの輪の後2つについて対策を解説します。
歯磨き・仕上げ磨き
お口の中に虫歯菌を入れないことが大切ですが、虫歯菌が入ってきても、虫歯菌が増えないお口の中にしておくことが大事です。
虫歯菌が増えないようにするために大事なことは、そう、歯磨きです。
歯磨きは歯の表面にくっついた虫歯菌を取り、虫歯菌の餌である砂糖(スクロース)をを除去することができます。
3歳未満のお子さんの場合、この時期のお子さん自身で磨く歯磨きは「歯磨きになれる、好きになる」ための歯磨きであって、汚れが取れていることは期待せず、温かく見守ってあげてください。
また、お子さんは歯ブラシを持って歩いたり、走ったりするかもしれません。
しかし、それはとても危険ですのでやめさせてください。(救急で子供が歯ブラシが顔に刺さって運ばれてくる姿を何回も見ています。。)
お母さんの仕上げ磨きは、下のイラストのような
お膝に頭を載せて仰向けにして磨いてください。
お口の中が見えにくい、という方はライト付きの歯ブラシを使用するのも一つです。私は歯科医師ですが、ライト付きの歯ブラシで仕上げ磨きをするようになり考え方が変わりました。


フロス
歯ブラシでだいたいの汚れは取れるのですが、歯と歯の間の汚れは取れにくいものです。余裕があればフロスをしようするとキレイにとれます。
また記事にしようと思うのですが、子供用のフロスを何種類か試した結果、最終的にこのフロスに落ち着きました。可愛らしさなどはないのですが、柄が握りやすく、逃げ回る子供にも使いやすいです。
歯を強くする(フッ素)
これはKeyesの3つの輪の一つ、お口の中の環境に関係します。
お口の中の環境、特に歯を強くするにはやはりフッ素(フッ化物)の力を借りるのが一番です。
お母さんの中には「フッ素は危険なのでは・・・」と思われている方がいらっしゃるかもしれませんが、
フッ素によくある誤解の一つにあります、猛毒だ、という意見に関しては「フッ素酸」という化学的に形が異なる構造のものなので本当に誤解ですし、それ以外の体への悪影響に関しても科学的根拠に欠くものがほとんどです。
それらの意見を信じたあまり、使用しない、と言うのは本当にもったいない、と思うくらい、実際フッ素を継続して使用していると虫歯に強くなるので、ぜひフッ素は活用してください。
参考記事↓なんでフッ素は歯を強くするのか、更に詳しく知りたい人はコチラ

フッ素塗布
お子さんへのフッ素(フッ化物)の使用方法として、「歯科医院や保健センターでのフッ素塗布」があります。
高濃度(9000ppm)のフッ素を一定時間歯に塗ることによって歯の表面にフッ素を供給し、歯を強くする方法です。3ヶ月に1度の塗布で効果が有ると言われているので、定期的に歯科医院で塗るように習慣づけると良いかと思います。
フッ素入りの歯磨きジェルの使用
歯磨き粉はブクブクうがいができるようになってから、とお子さんへの歯磨きの使用は3歳以降でおすすめする歯科医師の先生も多いのですが、
私はうがいが必要でないジェルタイプのものであったら歯が生えたときから使ったほうがいいと考えています。
例えばこういうものです。
このような歯磨きジェルはフッ素以外は食品(食品添加物)の材料で作られているので、基本的に食べてもOKなものでできています。
「赤ちゃんのお口の中に残ると赤ちゃんの健康に影響がでるのでは?」という考えがありますが
私は、まずはフッ素は体に及ぼす影響が低いと考えているということと、
微量のお口の中に残っているフッ素をふくんだ歯磨きジェルをのみこむことによる健康への悪影響と、フッ素を毎日使用することによる虫歯に強い歯を作ることができる良い影響とを天秤にかけると、
断然、毎日歯磨きジェルを使用するメリットのほうが大きい、と思い、うちの息子には約1歳くらいから歯磨きジェルを使用しています。

まとめますと、唾液からの感染予防に力を入れるのは3歳くらいまで、それ以降は歯磨きを中心に、赤ちゃんの虫歯予防をしていければ虫歯になりにくい歯になっていくと思います。
いかがでしたか?虫歯になりにくい歯を作る毎日のお手入れについて、知りたいことはわかりましたでしょうか?お役に立てたら幸いです!
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