内科のお医者さんに行ったらほぼ保険診療じゃない?でも、歯科って、普通の歯医者さんでも自費(保険外)診療があるし、自費だけでもやっている歯医者さんもあるし・・・。歯医者さんってなんでそんなに保険診療以外に積極的なの?もしかして儲けたいの・・・?
と、思っている方も多くいらっしゃるかもしれません。
いえいえ、決して歯医者さんはお金儲けをするために自費診療を行っているわけではありません。
歯医者さんで自費診療が多いのは、歯医者さんの治療の性質上そうなっているのです。
歯医者さんに行くのをためらう原因の一つとして「ひょっとして歯医者さんに行ったらとても高い被せ物を勧められるのでは・・・?」ということがあるかもしれません。
確かに歯医者さんはお医者さんと異なり、普通の街の歯医者さんでも自費(保険が効かない)治療を行っています。
なぜ、歯医者さんでは自費診療が多いのでしょうか?今回はこの謎について解明していきたいと思います。
そもそも保険診療とは
そもそも、日本に住んでいる方の大半が加入し、使うことのできる「保険診療」とはどのようなものなのでしょうか?
以前の過去記事でも詳細に触れていますが、↓
日本は昔は保険が効かず、いつでも全額自己負担で病院にかからなければ行けない人が3割もいましたが、それは良くない、ということで、
「日本に住んで、保険料を払っている人なら、どの病院に行っても同じ医療を受けられるようにしよう」
と、国が施策をし、1961年から、
毎月「保険料」を収める代わりに「保険診療」の範囲内の治療であったら、かかった医療費のうち1割から3割の負担で良い。
という「国民皆保険」という制度をスタートさせました。
- 国民は毎月決まった保険料を払います。
- 病院は「保険診療」の中の決まった「治療」を行い、決まった「金額」を患者さんと保険の機関に請求します。
- 治療にかかった金額は患者さんが1割〜3割、保険の機関は7割〜9割です。
(※患者さんの支払う割合が異なるのは、患者さんの所属する保険の機関によって異なるためです。ですので、人によって負担額は異なります。)
と、このような仕組みになっています。
保険診療で認められている治療のコンセプト
「保険」というのは健康な状態な人も含めて全員からお金を集めて、もし自分が病院にかかることがあったら、自分以外の人のプールしておいたお金も含めて使わせてもらう。
という仕組みです。
必要であるのなら他人のお金も使用する、ということになりますので、他の人からみて不平等感のない運用が求められます。
ですので、「保険診療」が使用されるのは、「健康が回復される」という点に限られています。
歯科で保険診療が多い理由
医科の場合は「健康を回復する」のが一番の目的になりますので、保険診療で概ね解決されることが多いのでは、と思いますが、歯科の場合は事情が異なってきます。
例えば、
「歯を最大限今考えられている治療法を使って長持ちさせる」
「よりかみやすい方法を選ぶ」
「見た目も違和感がない、美しい方法を選ぶ」
などといったことは、保険診療から言えば「健康を回復させる」以上の事が求められており、
「オーバースペック」な治療法です。
ですので、このように、より歯に良い治療を、という部分に関しては自費診療で行ってください。という政府のスタンスになってきます。
しかし、本当のことを言ったら、「自費診療」でも、歯のことを考えたら行ったほうがいい治療がたくさんあることも事実なんです。
実際、この保険が施行されたのは1960年、まだまだ戦後の影は残っていて、「歯がない」「歯が痛い」「食べられない」という人が溢れていて、その人達の歯をどうやって「安価」に補うか、に充填が最も置かれていた時代です。
この時に制定された保険ですので、未だに他の外国に比べても「歯を残す」ことより「どうやって「安く」噛めるところを作るか」に重点が置かれているように思います。
例えば保険の「銀歯」は他の外国では使用されておりません。
「銀歯」は「金銀パラジウム」という合金で、世界標準の歯に使用される合金「金合金」の代替金属として日本オリジナルで使用されている合金だからです。
(代替ですので、実は金合金や現在よく使用されるようになったセラミックより精度が低いです)
また、日本の歯科の治療の保険診療は「早くたくさん診」ないと運営そのものが立ち行かないような国が定めた価格設定になっています。
そのため、先進国の歯科医療から考えたら時間も器材も驚くほど短く、制限された上で診療を行っています。
それでも私達歯科医師は手を抜くことはありませんし、「日本人の歯科治療は丁寧」と言われているのは各先生方の努力の賜物だと思います。。
このように、色々な面で、保険診療が「必要最低限(それでも歯医者さんの自助努力でどうにかなってる)」のものです。
そもそも「本当は必要な治療」だからといって保険診療になっている訳ではありません。
少なくとも、歯科治療に関しては、多くの人がイメージする
自費診療≠お金持ちのする、一般市民が行うのは贅沢な治療
保険診療で充分治療できるのに、自費診療をするのは勿体無いこと
ではないのだと言うことを心の片隅のどこかに覚えていただければ嬉しいです。
自費診療で行われる治療の例
では、どのような診療が自費診療として行われているのでしょうか?以下によくされている歯科の自費診療をあげてみました。
自費診療例1:歯科矯正治療
歯科矯正治療は、特別な例以外は自費診療です。
特別な例について過去記事で書きました↓
歯科矯正治療は見た目を改善するだけではありません。歯並びが良いと、
- かみ合わせが良くなり咬合性外傷と言われる歯が割れたり歯茎の骨が吸収されてしまう病気のリスクが減る
- 歯並びの悪さから発生するプラークの残存などもなくなる
など、虫歯や歯周病、歯の破折等といった将来に渡った歯を失うリスクが減ります。
歯科矯正に対しての考え方は国によっても異なり、例えばスウェーデンは成人(20才)まで歯にかかる治療は無料ですし、その中に歯科矯正も含まれています。
これは、スウェーデンは国が歯科治療を「歯の予防」に対して重点を置いているためです。
20才までに虫歯や歯周病にかかるリスクを減らすほうが、国が歯科にかける予算が少なくて済む、という計算なんですね。
1歯科医師としては、この考え方に同意で、歯科矯正を行えばその後のお口の中の管理がし易いので、虫歯や歯周病のリスクも減らせるので、自費診療であってもお勧めするべき人にはおすすめしたい治療の一つです。
自費診療例2:インプラント
インプラントは自費治療です。
(保険診療が適用される場合もありますが↓過去記事 ごく一部です)
なぜならば、保険診療の考え方から言えば、「インプラント以外に安価に歯を補う方法があるから」です。
(入れ歯、ブリッジ)
しかし、入れ歯は例えば違和感があったり、ブリッジは、両隣の歯を削らなければならない、などデメリットがあります。★参考記事↓
入れ歯の違和感やブリッジの両隣の歯を削らないといけない、というデメリットに比べて、インプラントは自費診療であるということ以外は比較的デメリットの少ない治療です。
多くの患者様に「また噛む喜びをとりもどせた」といって頂ける、歯のない患者様にとって良い選択肢になりうると思います。
自費診療例3:セラミックや金合金を用いた精密な被せ物(クラウン)
これも、歯科医師としてはおすすめしたい治療の一つです。
これは多くの歯科医師が思っていることだと思うのですが、現在保険で使用している「金銀パラジウム」という合金は、精度(歯に合っている)があまり高くありません。
なぜならば、「金銀パラジウム」というのは日本の保険診療でペイできるために次善の策として考えられた日本だけで使用されている合金だからです。
同じ型取りの材料で作ったとしても、世界標準の合金である「金合金」や現在多く使用されつつある「セラミック」と比較して精度が低いです。
精度が低い事が何を表すのかというと、金属と歯の間がぴったりと合っていないので、そこから虫歯になりやすい、ということを示しています。
それでもできるだけ合わすように歯科医師が努力していますが、、やはり再び虫歯になる「2次カリエス」のリスクは払拭できません。
そのような現状もあり、「できるだけ歯を残したい」と思われる患者さんのニーズにお応えできるように、歯にピッタリと合う材料は多くの街の歯科医院でも取り揃えています。
そしてできるだけ、患者さんにもそのようなメリットをお伝えして、選択してもらうようにしています。
自費診療例4:ラバーダムやマイクロスコープを用いた治療
ラバーダムやマイクロスコープ、というのは、治療するための器材です。
(マイクロスコープ診療)
(ラバーダム)
虫歯が大きくなった時、歯の神経の入っている管の診療を行います。これを「根管治療」と言います。
根管治療は歯の神経の入っている管に虫歯菌が残らないように徹底的に消毒をします。
その治療の際に直接根の先まで見える顕微鏡「マイクロスコープ」を用いたり、唾液が入らないようにする歯の周りにかけるゴムシート「ラバーダム」をする、というのが世界的には標準的な治療になってきます。
これらの治療を行うのにはそれなりの時間が必要です。
海外ではこの治療を行うのに10万円単位でかかります。
しかし、日本では、1回数百円から1500円程度です。
そして、この治療は歯を将来残せるかどうかに大きく影響します。
海外で行われているような設備、器材、歯に用いる材料を揃えて治療を行いたい、と思ったら、どうしても費用面、時間面で保険診療では補えません。
ですので、「世界標準的な歯の根の治療を提供したい」と思っていらっしゃる先生、歯科医院では、自費での診療を行っています。
保険診療と自費診療の違い
このように、自費で行う診療の例をあげていきました。
そこでも書かせて頂きましたが、自費診療と保険診療の違いをまとめますと、
- 保険診療で行えない治療ができる
- 器材、材料が違う
- 期間、回数が自由に設定できる
などがあげられると思います。
そして、それによって得られるメリットとしては、
「歯の治療」として考えた時に歯にとって最良の方法を選択することができる。ということに尽きると思います。
歯科医師が自費診療をおすすめする理由
治療方法、歯にかぶせる材料、歯の治療のの際の環境、欠けられる時間など、
本当に「歯にとって最良」な治療を行おうとすると、現在の日本の保険診療の範囲を超えてしまう。というのが今の日本の歯科診療の現実です。
確かに、保険診療内で充分に治せるケースもありますが、そうでない場合もあります。
そうでない場合は、選択肢の一つとして、患者さんに自費の治療も提案します。
なぜならば、その治療のほうがより良い事は私達はわかっているからです。
とはいえ患者さんにも都合や優先順位があるのもこちらはよくわかっていますので、選択肢としての情報を持ってもらって、その上でどの治療にするかを選んでいただければな、といつも思っています。
歯医者さんは、「歯にベストな診療を」と思って行っていますので、そうなるとどうしても保険の範囲を超えた治療法もご提案することになるんですね。これが歯医者さんは自費診療をよく行っている理由です。
「良い」のでおススメはしていますが、あくまで選択肢の一つとしておすすめしていますので、もし断ったとしてもそれで何かなるわけではありませんので、よく話を聞いてみて、納得の行く選択をしてくださいね!
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